17.愛の輪廻

 予定を変更して、木曜なのに美咲の家に泊まった高波は、ぐったりしすぎてその晩はもうろうとし続けた美知子とは何もせず、美咲と二試合ほどこなしてから眠りについた。


 一眠りしてから何事もなかったように三人で朝食を取り、それぞれ別々の学校へ向けて家を出た。美咲は一人だけ別方向なことに悔しがっていたが、地団駄踏んでも大学の場所は変わらない。残り二人は最寄駅までぴったりくっついて電車に乗り、改札を出たところで周囲にキスを見せつけるバカップルっぷりだった。


 美咲は大学に向かいながら他の女性たちと相談し、今後どうするかは改めて今晩緊急会議を開くことになった。当然、中には不満を隠せない女性もいたのだが、かといって話し合いの場に出てこなければ高波と切れてしまいかねないと、ひとまずは納得したようだ。



 金曜と言えば週末に向けてワクワクそわそわするような日だが、今日は色々と特別な一日になりそうだと感じている奴らが大勢いた。


 高波は今日も美知子と会うことだけ考えていたところに緊急会議招集と言われ少しだけ憂鬱になっていたし、美知子はなんだかわからないけど高波と会う事だけは確定していると気分良く過ごしていた。


 そんな西高にはもう一人地に足がついていない女子がいて、横井桃子は思いがけず再会した金子からの誘いにどう返事をしようかもう何時間も悩み続けている。確かに中学の頃はちょっといいなと思ってた男子だが、三年間何もなかったのだから脈無しだと考えていた。


 そしてその桃子から、昨晩送ったメッセの返事が来ないことにやきもきしている金子は、まさかまだ何もしてないうちから嫌われたのかと不安になり、いつも聞いていない授業がなおさら耳に入ってこない。仕方なく前の席にいる大内に八つ当たりすべく、ノートの切れ端を丸めたものを輪ゴムで撃ち込み続ける。


 しまいには大内がガチギレし、くだらないいたずらをしていたのが教師にばれた金子は、放課後にボランティア委員が行う近隣清掃への強制参加を言い渡された。


 そんな大内の様子を見ていた谷前は、クラスのヒラエルキー上位である高波や金子に物言える間柄なのだとホレ直し、あばたもえくぼと言うことわざの信憑性を証明したのだった。


 そして放課後――


「そんじゃ今日は先帰るからな。

 掃除なんて付き合ってらんねえし、これから会議で呼び出されてんだわ。

 毎日美咲ちゃんちに泊めて貰えねえから言うこと聞かないとさ」


「いいよなぁハーレムなんて幸せそうな中での悩みだからよ。

 俺なんて桃子から返事も来ねえんだぜ?

 授業終るのは同じくらいのはずだからこれから行ってこよっかな」


「金子君、掃除サボったら赤点ライン上げるって言われてるんでしょ?

 ちゃんと参加した方がいいよ?

 それと、これに懲りて大内君へ八つ当たりしないようにね」


「お、谷前もすっかり女房気取りだな。

 こりゃ来週からは弁当くらい作ってくるかもしれねえ。

 あーウラヤマズリー」


「金ちゃんも桃子に作ってもらえばいいじゃん。

 って言ってもチャリ通だから朝に駅で会うこともないのか。

 つか結構距離あんのに気合入り過ぎだろ」


「俺もチャリ通にしようか考えてんだけどさ。

 その前に返事が来ねえっての!

 弁当なんて言ってる場合じゃねえし、そもそもあいつの弁当はプロティンらしいぞ?」


「マジヤベエな、そこまでいくとワロエねえ。

 こりゃ付き合って数か月もしたら金ちゃんもムキムキになってるかもしれねえな。

 それか締り良過ぎてチン○がちぎれてたりしてよ」


 そのとき、パシーンといい音がして、高波の頭は大学ノートでひっぱたかれていた。犯人はもちろんなにかと絡んでくる貞岡久美である。


「おう貞子か、どした? やっぱ誰か紹介してほしくなったか?

 でも今日はこれから用があるからムリなんだよなぁ」


「そんなこと考えてないわよ!

 このノートをボランティア委員に持ってくところでバカな声が聞こえただけ。

 小学生じゃないんだから、大きな声で変なこと言うのやめなさいよね」


「いやあ、変だって言われても自分にもついてるもんだからなぁ。

 お前だって嫌いじゃないってこともないか、まだ――」


 今度はノートではなく、平手が高波の頬を全力で捉えていた。

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