02 何のための茶室
まず、何のために二畳の茶室を作るのか。
それが、宗易の頭をつかんで離れなくなった。
秀吉に聞こうにも、秀吉はあの山崎合戦のあと、輪をかけて忙しくなり、とても会える状態ではなかった。
そこで、弟にして腹心である羽柴秀長を捕まえた。
よりによって山崎で。
聞いてみると「兄者は
「えっ、
「
秀長は、その城を築く差配を任されたという。
「兄者は、長浜を捨てるおつもりじゃ」
「長浜を」
秀吉の立身出世の象徴、近江長浜城。
その城の縄張りから何から何まで、秀吉がその築城術の粋を尽くして建てた城。
それを。
「捨てるゥ言いはるんでっか」
「
いつしか秀長と宗易はふたりで山崎の山中を歩き、新たな城について話した。
「とにかく」
秀長は
「兄者は
*
山崎というのは、京――山城と摂津の境にあり、古来、商人が居を構えており、水にも恵まれ、ここを押さえるというのは自然な考えだ。
現在、京にいる秀吉が、その京の西玄関ともいうべき山崎を
「堺もやな」
宗易はひとりごちた。
今、山崎城の縄張りに
遥か姫路と山崎の間には堺がある。
秀吉は一見、京を抑え、山崎に城を築き、姫路との繋がりを構築したかに見える。
が、秀吉の縄張りの中、京と姫路の間には堺がある。
「これは逃げられん」
単に宗易ひとりのことではない。堺が逃げられないのだ。
一手打ったと見せて、その一手は四方八方へと繋がっている。
それが、秀吉。
鬼才・信長の下で、最も異能を誇った男。
「…………」
城の縄張りを歩きつつ、宗易はうしろに付き従う高山右近から指示を求められた。
「ではそのように手配いたします」
摂津と山崎は近い。というか、山城と摂津の境が山崎である。
そのため、摂津の国人である右近は、山崎城の築城に最適の人材といえた。
「問題は」
この千宗易が、いつの間にか山崎城の築城をやらされていることだ。
あれから、羽柴秀長は宗易を置いて、姫路へと向かった。
そして気がつくと、右近がしたり顔で宗易の指示を仰ぎに来た。
「やられた」
宗易は秀吉の豪胆さに舌を巻いた。
堺を閉じ込め、その堺の扉ともいうべき山崎を、宗易に任せる。
秀吉はこれで、堺を手中にしつつ、それを堺の商人である宗易に監視させている。
「恐ろしいお方や」
たとえば宗易が裏切って、柴田勝家なりと手を組んだとしよう。
即座に京の秀吉と姫路の秀長から挟み撃ちである。
「こないに何重にも人を、町を、城を、そして国を」
故・織田信長がもしこれを見ていたら、どう思うか。
下手をすると、己をも上回る異能を。
「何にせよ、茶室を作らんと」
かつて信長は秀吉に無理難題を与え、秀吉はそれを果たし乗り越え、織田軍団の筆頭に迫る地位を手に入れた。
もしかしたら宗易も、この二畳の茶室という無理難題をかなえた時――。
「そないな地位、手に入れたら。それこそ、あたかも」
羽柴秀吉のように上を狙う者と思われるのか。
宗易は
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