魔王を倒して20年。転生した異世界で辺境貴族になった元勇者のおっさんだけど、強制参加のデスマッチでツンデレ聖女に無双ざまぁしたら、悪役貴族がバズって優勝です
十森メメ
プロローグ
「お~なんか久しぶりだな~」
懐かしい過去の記憶がよみがえり、俺の心は少なからず踊っていた。
王都ベルハイム。俺が住む辺境の片田舎から馬車で丸1日揺られてようやく辿り着く南方最大の王国都市。
やはり王都の賑わいというのは別格だった。行き交う様々な格好をした人の群れや市場に並ぶ多種多様な品の数々は、田舎慣れした俺にとってまるで異世界にきたような(まあ異世界なんだけど)感覚を呼び起こさせた。
「ゼタ様で、いらっしゃいますでしょうか?」
喧噪の中、ふと話しかけられたので、声の主に視線を移す。
そこには、年の頃は俺と大して変わらないように見える1人の女性が立っていた。
若々しさを保ちつつも、何の装飾も要らない自然体の美しさを放つ彼女。波打つ髪には少し白髪が見え隠れするものの、それがまた彼女の魅力を引き立てている。
そして、俺は彼女のことをどこかで見たことがあるような気がしていた。
「フラム、だよね?」
思い出した。彼女はフラム。ここ王都ベルハイムで王の側近として勤めていた可愛らしい女性従者だ。
「お久しぶりです、ゼタ様。随分、年を重ねられましたね」
「フラムも……」
「正直に申し上げてよろしいのですよ?貴方と最後にお会いしたのは、もう20年も前のこと……。いいおばさんですよ、私」
ふふふと笑う彼女の笑顔がまぶしい。そういえば、女性と話すのは久しぶりだ。
「迎えに来た、ということでいいのかな?」
「ええ。王がお待ちです」
エスコートしようとする姿がまた可憐だ。ちょっと好きになりそう。
「では、王宮へ参りましょうか」
◇
「なんじゃあ、あごひげなんぞ蓄えおって。イケオジのつもりか?」
第一声から皮肉たっぷりな王の様子は以前と変わらない。
「王は相変わらずお元気そうですね。見た目も20年前と全く同じです」
久方ぶりだというのに、王は生気に満ち溢れていた。
「まだまだ現役じゃぞ、ワシ」
玉座に座り、力こぶを見せるベルハイム王。小柄でドワーフみたいな背格好と着せられている感がある王衣のミスマッチも相変わらずだ。
「お主はどうじゃ?だいぶくたびれておるようじゃが」
「私は来る年波に勝てません。最近疲れやすくて、眠りも浅くなっています」
「まだ40代じゃろ?ちと早ないか」
誰もが王のように生気溢れる老人ライフを送れるわけではない。
「それはそうとベルハイム王。現役を離れて久しい私が、何故このような大会に呼ばれたのでしょうか?」
率直な疑問を投げかける俺。
魔王を倒して久しい疲労感あふれる元勇者が招集されるような、そんな生易しい大会ではないはずなのだが。
「わしゃお主の現役時代の大ファンでの。死ぬ前にもう一度、そなたの活躍が見とうなってな」
とても死期が近いご老体には見えませんが。
「もうあの頃のようには戦えませんよ、私。最近ただでさえ動くのがしんどくて」
「なぁにを言っとるんじゃ!若造が!
無茶言わないでくれよ。それでやれれば苦労はない。
「デスマッチってことは、相手を殺さないといけないんですかね?」
デスマッチって、死の試合って意味だよね?
「いいえ。それもひとつの勝利条件とはなりますが、命を奪わずに勝つ方法もあります」
フラムが俺と王の話に割って入ってくる。先ほどとは違い、とても
「というと?」
「こちらをご覧ください」
フラムがハンコのような小物をメイド服のポケットから無造作に取り出し、俺に見せつけてくる。
見た目は印鑑だ。フラムは朱肉をつける部分が見えるように掲げていたので、そこに刻まれた反転文字が『呪』だとわかる。
「これは『生殺与奪の呪印』と言いまして、大会出場者全員に配布される特殊な魔道具になります」
生殺与奪の呪印?物騒な名前のハンコだな。
「この呪印をバトル会場で相手の
なんかすごい呪力を秘めたハンコだな。永久に奴隷にできるってすごくないか?
「また、奴隷の奴隷は奴隷……。ということで、初戦に勝てば1人、2回戦に勝てば2人、3回戦に勝てばさらに4人といった具合に奴隷が倍々ゲームで増えていきます。この大会の参加者総数は貴方を含めて512人。つまり、対戦相手全員に呪印を押して優勝することで、最大511人の奴隷が得られる計算になるのです!」
フラムが満面の笑みでドヤ顔をしている。いや、死人が出たらそうとも限らんでしょ……。
てか別に俺は奴隷とかいらないんだけどね。でも殺すのはさすがに気が引けるしなぁ。相手の戦意を奪うだけじゃだめなのか?白旗を挙げるってのも戦いにはあるでしょ、普通。
……とても王国主催のイベントとは思えない。バックになにかついてるのか。
「企画・運営・主催はぜんぶ電流ファンタジアさんがやっておる。異世界最大手のメディア事業の主がついておるから、なぁんも心配はいらんぞ」
電流ファンタジアさんか。なるほどね。
あの組織はたしか、俺が魔王を倒した20年前から急速に事業を拡大し、今や貴族や国ですらあまり文句を言えなくなった巨大民間団体のひとつ。色々ヤバい橋も渡っているって噂らしいから、この大会ルールにもなんとなく納得がいく。
それにあそこの関連団体には『闘技くじ』の元締めをやっているカーク黄泉売商会がある。闘技くじは公営だから、利益の半分を王国に治めなければいけない。
異世界全体を巻き込んでのデスマッチならメディアの相乗効果もあって大きな金が動く。王国のお墨付きがあれば法的にも問題ない。そういうことね。
「しかも、この大会の優勝者にはなんと!好きな願い事を1つだけ叶えられるという超絶報酬がついてくるのじゃ!どうかね?よいイベントだと思わんか?」
なんかいろんな利権とか思惑が絡み合っていそうだな。
まぁ俺は今の自分の生活が守れればそれでいいし、あまり権力に逆らうつもりもない。とりあえず、いま持ってる資産を没収されるのは勘弁願いたいので、大会には参加しようと思っている。
「では、参加規約をお確かめの上、ご了承いただけるようでしたらこちらにサインを」
フラムがタブレットを提示し、電子署名を求めてくる。
ちなみに今この異世界は、たくさんの転生者たちが次々と舞い込むワケのわからない世界となっていて、現代の技術やノウハウ、社会システムなどがかなり流入している。
俺は田舎暮らしをしていたのであまりなじみがなかったが、情報だけはリアルタイムで取得するようにしていたので、色々知ってはいた。
ただやはり王都は都会で王宮はその中心。早くから現代の様々なアイテムやグッズを取り込んでいるのだろう。辺りをよく見渡すと、中世と現代の様式が入り混じる独特でいびつな世界観を形成していた。
「字細かすぎ……。読みにくい……」
老眼間近の視力にこの細かいデジタル文字は脳みそに入ってこない。
小さい字を見ていると頭がクラクラするので、あまり読まずにタッチペンでサインをする俺。
「ありがとうございます。では早速ではありますが、1回戦の相手がすでに準備を整えておられますので、バトル会場まですぐにお連れいたします。あ、これ呪印になります。はい、どうぞ。使用する機会があることを願っています」
フラムが結構投げやりに呪印を渡してくる。これ、結構危険な代物だよね?
最初の可憐な印象はもうどこかへ消えてしまった。残念だけど、今はとても恐ろしい機械人形のような存在に見えてしまっている。
「え?いまからすぐ戦うのか?準備とかしたいんだけど……」
剣くらいは背中に背負っているが、防具とかはとくにつけていない。めっちゃ軽装な俺。これで戦うの??
「つべこべ言わずについてきなさい!」
はい。すんませんでした。
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