第63話 迷走気味

カンケル蟹座はちゃんとカニだった。法則性が分からなくなってきた、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲが別物ならⅣもそうなるべきだっただろ」


 試練を合格した廣谷はテンプレと化した試練攻略を続ける。

 中央の道に戻り次のⅤの試練へ――向かおうとした時「ばしゃ」と水音が聞こえた。

 

「……今の」


 水を踏んだ時によく鳴るあの水音。己の足音に水はない。

 ——なにか、いる。

 気づかぬうちに背後を取られていたという事実に、廣谷の額からたらりと汗が流れた。

 水音は先程の一回だけ。浮遊系でなければ何かは今もその場にいる。と廣谷は推測した――が次の行動をどうするべきか廣谷は悩んだ。

 何がいるのか確認するべきだろう。だが、もしそれが見てはいけないものだとしたら? と廣谷は考える。

 腐ってもここはモンスターが蔓延る迷宮。このエリアに来る前にそういうモンスター見たら即死系ながいたとしたら? 

 

 ——だけど、見ない方がよっぽど怖いと思うし、疑問だけが残るよな。


 だが廣谷は割とすぐに結論を出した。正直ここまで来たらそういうもので動揺するのは違うよな。とすぐに悩みも焦りも正体不明の存在にも見ればいいか。な安直な答えを出した。


「………………誰も、いない?」


 勢いよく背後を振り向いた先は何もなかった。影も形も何もない。


「はぁ???」


 首を傾げ腕を組む。疑いの眼差しで周囲を見渡す。浮遊系モンスターかもしれない。と期待を込め――――――何もなかった。

 やっぱり何もない。モンスターらしき姿も、人影らしき姿も。能力を使おうが結果は同じ。


 ただ、中央に水溜まりがあるだけ。



「水溜まり?」


 そこで廣谷は地面に意識が向けられた。

 さっきまではなかった水溜まり。そもそも廣谷が目を覚ました際に下敷きになっていたのはあの大きくなったマスコットスライム。その後は水溜まりはなくなっていた。だが今この場に水溜まりは存在している。

 異常な光景に廣谷は口を引きつらせた。

 

「怪奇現象みたいな事を。……さっき「モンスターが視認出来る」ってやったのにモンスターの姿はない、な………………え? 本物の怪奇現象?」


 モンスターと霊が同居してるダンジョンってそれなんて事故物件? と疑念を抱きながら廣谷は水溜まりを確認する。

 水溜まりには廣谷の姿が映っているだけのただの水溜まり。じっと観察し水溜まりを蹴ってみるが普通の水。

 

「ん~」


 ワカラン。と廣谷は水溜まりを触ろうと屈んだ。

 その瞬間。


 水溜まりから人間の手が生えた。


「は? っうわあああ!!!?」


 呆然とする廣谷をよそにその手は廣谷を水溜まりに引き込んだ。

 浅いはずなのに廣谷の体はどんどん中に入って行き、空間から水溜まりだけを残し消えた。

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