第52話
「待って、待って、待て。一度話を整理させろ」
使い魔と名乗るランタン達の話を聞き、廣谷は情報整理でランタンの会話を止めた。
『にんげんだいじょうぶ?』
『あたまいたいいたい?』
ゆらゆらと廣谷の周囲を飛び回るランタンに「意図せず癒しを手に入れてしまった……かわいい」と状況が全く理解できないのに和んだ。
能力が可笑しくなっているに目覚めた時に消えた水(と水の音)。Ⅰ~Ⅻが彫られた道、己の音以外聞こえないエリア。全てが今までとは異常な状況の中で唐突の癒し。ランタンが人間に作られた魔法で作られた
「こことは違う世界でダンジョンを作った人間がいた、か。確かにこんな現代でダンジョン作れるやつなんてそうそういないから、別世界の人間が作りましたって話の方が信憑性ある」
別世界の人間がダンジョンを沢山作ったという話。その一つがこのダンジョンだということ。
「一人でダンジョン作ったはおかしいだろ……」
ランタン達が話すダンジョンの作成者は一人だけ。一人でダンジョンを沢山作ったという話は流石に信じれなかった。
『ますたーすごくかしこい』
『ますたーにんげんきらい、ぼくたちつくった』
『おうちたくさんつくったの』
「賢いって、どれぐらい賢いんだ」
カラカラとランタン達が口々に話す主人が気になった廣谷は思ったままの疑問を口にした。
その言葉に彼らの動きは弱弱しくなった。顔がしょんぼりと落ち込んでいる表情に変わり、同時に聞こえた音が悲しい音色をしているように廣谷は感じた。
なんでそんな反応をする? と不思議に首を傾げる。その行動は答えは直後彼らの言葉により解明した。
『せかいのだれよりも』
『だれよりもかしこくて、ころされた』
「——は?」
一瞬言葉の意味が呑み込めなかった。呑み込めた後も呆然してしまいまともな言葉は出てこなかった。
固まる廣谷に彼らは口々に語る。
『ますたー、おうちつくってただけ』
『ますたー、ひとりだった』
『ますたー、ぼくたちあいしてた』
『ころされた、ますたーのねがい、にんげんうらむな』
『ぼくたち、にくめない、うらめない……しくしく』
重なる衝撃に廣谷は無駄に口を開閉させるだけだった。
慰め、同情、何を言葉にした所で彼らには「なにがわかる?」と一蹴りされると分かってしまったから廣谷は何も言わなかった――言えなかった。ただ呆然と立ち尽くし事しか出来なかった。
ランタン達は変わらず悲し気な音色を鳴らしている。しくしく、しくしくと擬音を垂れ流す。涙を流す機能がないから目を瞑る行為と言葉で悲しさを表す気まずい状況。廣谷は視線を逸らす。「こうなるとは思わなかった」「どうしよ。気まずいしめんどくさい」の二つの気持ちがせめぎ合ってきた。
『つれてって』
「え? は? 何、何???」
『おそと、つれてって』
『おそといきたい』
『わるいことしない、しないから』
『つれてって、つれていって、おそと』
唐突に連れていけ連れていけと廣谷に近づくランタンに廣谷はじりじりと後ずさり、もしもの時を考え武器に力を入れ「なんでいきなり、外に行ってどうするんだ!?」と声を荒げた。——憎めない、恨めないって言ったけどそんなすぐに信用できるはずがない!
断ろうとした廣谷に耳に心を揺らがせる寂しげな願いが聞こえた。
『ますたーがみたおそら、みたい』
『ぼくたちとおなじ、あおいろのおそら』
「——っ! ~~~~~~っっ勝手にしろ!!!」
なんでそんな事言うんだ!!!!! なんなんだ!!!!! と廣谷はやけになった。ぎゅっと苦し気な表情をして同行を許した。
どうでもいい。面倒。信用出来ない。一人でありたい。そういう性格だと廣谷は分かっている。だけどランタン達の行為は嘘でも真でも廣谷の良心に訴えてきた。彼らの状況を少しでも想像してしまい、同情した。だから断れなかった。
『ありがとうありがとう』
『ありがとうにんげん』
『ありがとう』
音色は嬉しい音に、表情は歓喜の顔に。「これで、よかったのか?」了承したとはいえ廣谷は自分の行動に不安を覚え、顔を伏せた。
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