第39話

「ずっと地下暮らししてるから、日の光が欲しいな」


 廣谷は暗闇エリアを進みながら呟く。腰には武器アプリにあったランタン。

 ランタンの小ささに、これじゃ少ししか照らせないんじゃないのか? と廣谷は思ったが、その思いを打ち破るようにランタンはダンジョン内を明るく照らした。ランタンを消すと真っ暗になり、ランタンをつけると、遠くの方は暗いままだったが、それが気にならない程普段のダンジョンと同じような明るさだった。

 廣谷はどういう原理なんだ? と思ったが、武器アプリで買ったアイテムがどこからともなく現れる為、深くは考えないようにした。

 そしてランタンの明るさに先程の言葉を呟いた。


「わふ?」

『廣谷、お外行きたいの?』

「行きたい……けど、今はいけないんだよな」


 廣谷はため息を吐く。あの後タイツクで自分のやった事と外に出た事が記事になっており、廣谷は「うわっ……」と声を漏らすほど最悪な気分になった。

 廣谷は一人の時間を邪魔されるのが嫌いな為、話題にされると今まで以上に絡まれるかもしれない。と思ったからだった。ただでさえタイツクで話しかけてくる人や、組んでくださいなどという人もいるのに……と。

 そして廣谷の考えは当たってしまい、タイツクで話しかけてくる人や組んでくれの話が増えに増えた。廣谷は通知の煩さにスマホの電源を落とし、事が収まるまでは外に出ないようにしよう。と決めた。

 

「わん」

『いつかまたお外に行けるといいね!』

「うん。その時はシロも一緒だ」

「わんっ!」

『やったー!』


 シロは廣谷の言葉に嬉しそうに尻尾をブンブンと振る。それを見て廣谷も嬉しくなり、シロの頭を撫でた。

 そうして先に進んでいると、奥の通路から何かの影が二人の元に向かってきた。それは人の形をしている影だった。影はゆらゆらと揺れながら手に持っている剣を構え、二人に向かって突っ込んできた。

 廣谷は向かってきた影に向かって小手調べで火の銃を使って影に弾を撃ちこむ。火の弾は影に当たると燃え始め、体全員を火が覆った。そしてそのまま倒れ伏し、溶けていった。

 

「あっけないな。これならきのこエリアの奴らの方が強かった」

「ヴヴヴヴ……」

『まだいる、死んでない』

「――は?」

「ワヴッ!!!」

「うわっ!?」


 シロは唸った後、勢いよく振り向きながら何かに飛び掛かった。そして飛び掛かった瞬間ぐしゃ、バキッ。と何かを噛み砕いた音がした瞬間。


『アアアアアアア!?!?』


 聞いた事のない、不気味な悲鳴が辺りに響いた。その叫び声に背筋がぞわっとし、聞いてはいけない。と判断した廣谷は耳を塞ぐ。

 シロは悲鳴に動じる事なく、ばきっ、ぐしゃ。と何かを噛み砕いていく。廣谷はシロが何を噛み砕いているのか確認すると、それは先程燃やした影だった。そして、顔の部分に先程までなかった目がついてあり、じっと廣谷を見つめていた。


「ひっ!?」


 視線が合った瞬間、これは駄目だ。駄目なものだ。と脳が理解して、廣谷は目を閉じ蹲った。

 そしてその状態で暫く経った後、わんっ! とシロの元気な声が聞こえた。


『終わったよ! もう大丈夫!』

「……あ、ああ……」

「わん?」

『廣谷、大丈夫?』

「……た、ぶん。気にするな。……進もう」


 廣谷は疲れた様子でシロに顔を埋めて先に進むように言った。

 なんなんだあれ、あれは、駄目だ……精神が壊れる。暗闇エリアがこういうやつらばかりなら、慎重に進まないと。と廣谷は先程の影に恐怖を感じながらスライムを触りながら思った。

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