再会した初恋の幼馴染と僕は両想いだったのに10年後の僕は知らない人と同棲していた
緑のキツネ
第1章 未来を変える覚悟
第1話 忘れられない初恋
『初恋の相手と結婚できる確率は1%』という言葉を知ったのは、僕が中学生になった時だ。初恋が忘れられず、もしも付き合えたらみたいなことを考えていた時、お母さんに言われた。
高校生になっても彼女の事を忘れることはなく、ずっと彼女の事ばかり考えていた。高校3年生になって2ヶ月が経ち、受験生として勉強しながら、文化祭の準備をしていかないといけない忙しい時期に迎えた頃、僕のクラスに転校生がやってきた。
「私の名前は――」
今日もずっと空を見ながら初恋の相手である幼馴染の明美の事を思い出していた。明美と別れてもう8年が経つのに、まだ忘れる事が出来ない。昨日、1人の後輩の女子に告白されたが、僕には好きな人が居るからと言う理由で断ってしまった。もう無理だと分かっているのに……頭が現実を受け入れてくれない。
「岡本、ちゃんと話聞いとるか?」
ふと、我に返って周りを見渡した。担任の清水先生と目が完全に合った。クラスメイトのみんなも僕の方を見ていた。
「はい……」
「じゃあ何の話してたか分かるか?」
「えっと……文化祭の話ですか?」
周りの笑い声が聞こえ始めた。僕が考え事を始める少し前までは2週間後にある文化祭の話をしていたはず……。
「もう文化祭の話は終わった。今は転校生の話をしててたんだよ」
「転校生?」
もう高校3年生になってから2ヶ月が経ち始め、受験生としての自覚を持ち始め、クラスの中に緊張感が生まれ始めたタイミングで転校生が来るとは、思ってもみなかった。
「入っていいぞ」
清水先生の声と同時に扉が開いた。そして、気品のある美しい1人の女性が黒板の前に立った。僕達の学校の制服であるセーラー服がめちゃくちゃ似合っていた。その顔はどこか見覚えがあるような気もしたが、彼女の自己紹介に耳を傾けた。
「私の名前は、
その名前を聞いた瞬間、僕の心臓は止まりかけた。彼女こそが僕の初恋の相手であり、忘れられない人だ。まさか、こんなに早く再会出来るなんて。明美は小学3年生の時に親の仕事の関係で転校した。自己紹介を終えた明美は、偶々空いていた僕の隣の席に座った。
「久しぶりだね」
何度も頬をつねった。これは、夢じゃないんだ。隣を見るだけで、心臓の音が早くなる。朝のホームルームが終わり、1時間目の授業の準備を始めた時、「ゆうくん」と声をかけられた。
「……久しぶり。体、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。私の事をすぐ心配する所、小学生の時から全然変わってないね」
「そうかな。明美はあの時より可愛くなったね」
自分の顔を見て、明美は笑い始めた。
「なんで笑ってるの?」
「だって、顔めちゃくちゃ赤いよ」
明美の顔を見る度に胸がドキドキしてしまい、顔が気づかないうちに真っ赤に燃え上がっていた。
「いや、、別に赤くないよ」
「私、ずっとゆうくんに会いたかったよ」
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になり始めた。
「自分もずっと明美に会いたかったよ」
声は震え、自分が何を言っているかも分からなくなっていた。
「私、、」
明美が何か言おうとした時、チャイムが鳴り始め、僕の耳に明美の言葉は届かなかった。
チャイムが鳴り終わり、「何か言った?」と言うと、明美は、「なんでもない」と言って、教室を出て行った。
僕と明美が話しているのを見て、1つ前の席の拓海が振り返って「何話してたの?」と聞いてきた。
拓海は、眼鏡をかけた僕の友達で、高校3年間クラスがずっと一緒だった為、休憩時間もどうでも良い話で盛り上がっている。僕の顔を見ている拓海は楽しそうな顔をしていた。
「思い出話だよ」
「会ったことあるの?」
「うん。同じ小学校だったから」
「そうか。でも、こんな時期に転校生なんておかしいよな」
「うん」
確かに。高校1、2年生の時に転校してくるならまだ分かるけど、3年生の6月にどうして……。受験も控えている中、明美が転校してきた理由は一体何なのか。
「ねえ、村上さんとの思い出話、僕にも聞かせてよ」
「えーー。まあ良いよ」
僕は、明美と最後に行った花火大会の話を拓海に話した。話が終わると、拓海はニヤニヤしながら、「村上さんとの恋が実ると良いね」と言って、前を向いた。
明美も自分の隣の席に戻ってきたところで1時間目の授業が始まった。
それから授業の休憩時間に明美と思い出話をしたり、昼食の時間で一緒にご飯を食べたり、授業で分からないところを僕が教えてあげたり、高校生活の中で1番楽しい1日だった。
でも、明美が転校してきた理由は聞けなかった。帰りのホームルームが終わり、みんなが帰り始めた頃、明美が僕にカバンを持って近づいてきた。
「ゆうくん、一緒に帰ろうよ」
「良いよ」
2人で歩く帰り道は、まるで小学生に戻ったような感覚に陥っていた。
「ゆうくんは好きな人いるの?」
突然、明美は軽いノリで聞いてきた。僕の好きな人は、明美だなんて言ったら引かれるかな……。
小学3年生の時、明美と別れたのに、それからもずっと好きだった。こんな事を言ったら気持ち悪いと思われて、この関係性が今日で終わるかもしれない。
「居ないよ……」
小さな声で言った。
「そっか。良かった。私、ずっとゆうくんのこと、好きだったから、誰にも取られて無くて良かったよ」
その言葉を聞いた瞬間、僕の目に涙が溢れ始めた。8年間、みんなに「初恋は諦めろ」と言われ続けたけど、諦めることができなかった僕は、明美から「好き」と言われる妄想をずっと繰り返していた。今度は僕が……。深呼吸をして、心を落ち着かせて、「僕も好きだよ」と言った。
明美は嬉しそうな顔で「ありがとう」と言ってくれた。
少し進むと、明美と別れる場所まで来てしまい、「また明日」と言って僕は自分の家に走って帰った。
お母さんもお父さんも仕事でいない為、1人で家の鍵を開け、中に入り、自分の部屋のベッドに飛び込むように寝転んだ。今でも信じられない……。まだ心臓が張り裂けそうだった。心を落ち着かせる為に、机の上にあった青いノートを取り出した。
青いノートの表紙には「日記」と書かれている。日記は、大人になって見返せるように、高校に入学してから2年間ずっと書き続けている。このノートは、15冊目だ。そこに、ボールペンで今日の嬉しい思いを言葉にして、書き始めた。
6月1日
転校生に村上明美がやってきた。まさかの再会に驚きが隠せなかった。初恋相手とこんな所で再会するなんて僕達は運命の赤い糸で結ばれているのかもしれない。明美も僕の事を好きみたいだ。初恋相手と結婚できる確率は1%と聞いたことがあるが、僕達はその僅かな1%に選ばれたのかもしれない。
日記を書き終えた僕は、お菓子を食べようと思い、リベングに向かった。リビングの大きな机の上に丸い包装紙に包まれたチョコレートが1つ不自然に置かれていた。
「誰だよ……こんなところにチョコを置いたのは」
そんな独り言を言いながら、チョコレートを食べた。その瞬間、眠気が一気に襲ってきた。
「眠い……」僕はその場で倒れ込んでしまった。
「あなた、会社の時間でしょ。早く起きて」
暗闇の世界に聞こえてくる女性の声。その言葉でやっと目を覚ました。目の前には、知らない女性の顔が立っていた。
「早く起きて朝ごはん食べてよ」
知らない女性は、そう言って扉から出ていった。まだ、状況が飲み込めない。確か、僕はチョコレートを食べて寝込んでいたはずだ。体を起こして辺りを見渡した。
「ここはどこだよ……」
見たことのない机や棚、知らない漫画も沢山置いてあった。机の近くにあったカレンダーを見ると、2033年6月になっていた。2033年!?近くにあったスマホのロック画面にも2033年6月1日と表示されていた。誰かのイタズラかもしれない。そう思い、鏡を見ると、中学生の僕とは明らかに違う自分らしき人が居た。
「これが自分なのか……」
不思議に思いながらリビングに向かった。知らない女性が座っていた。
「早く食べてよ」
「あの……あなたは誰ですか?」
「何?冗談?ゆうくん、いつも私の事、しずちゃんって呼んでくれてるでしょ?」
「そうだよね……。ねえ、僕達ってどういう関係なの?」
「うーん。まだ結婚はしてないから、恋人かな。まあ、私はいつでもプロポーズ待ってるから」
結婚はしていないことに一安心しながら、朝ごはんを食べて、自分の部屋に戻り、情報を整理した。謎のチョコレートを食べて寝た僕は10年後の世界に来ていた。10年後の世界で僕と一緒に過ごしている彼女の名前は、鞄に入っていたノートの表紙に書かれていた。
名前は
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