第20話 聖アウグスト大聖堂
朝、夜明け近く、街の至る所にある教会の鐘が一斉に鳴り響く。これまでも教会の鐘の音は聞いてきたが、さすが大都市。鳴り響く鐘の音の数が半端ない。
この街が鐘の音で支配されたかのような不思議な感覚に陥る。
さて、リブストンに来たら必ず行きたいと思っていた場所がある。聖アウグスト大聖堂だ。
僕は敬虔な真聖教徒だから、と言うわけではない。このリブストンには真聖教の教会は数多くあるが、そのほとんどを統べる聖アウグスト大聖堂であれば、魔法の適正を調べる事が出来ると思ったからだ。
カイトは新たな護衛のトーマスに声をかけて出かける準備をしていると、そこへビアンカがやってくる。
「カイト〜。出かけるの?」
「そうだよ。教会に用があってね」
「ビアンカも連れてってよ。」
「アクセルさんとは一緒じゃないのかい?」
「パパはアルフレッドさんと行っちゃった。。。ここで大人しくしてなさいって」
「じゃあここで大人しくしとかないとね」
「イヤだ。ビアンカも教会行きたい」
「ええー。 アクセルさんに怒られるよ。アクセルさん怖いんだぞー」
「ビアンカには優しいから大丈夫だよ」
「僕が大丈夫じゃないってっ。剣でボコボコに殴られたら責任とってくれる?」
「責任とってあいじんになってあげるよ」
「それこそアクセルさんに殺されるよ!!!!」
本当に殺される気がするから冗談でも愛人とか言わないでね。
「大丈夫!パパは私に優しいから、私がやめてっていったらちょっとで済むし」
話が通じていない・・ちょっとで死にますから・・。
「わかったよ。でも護衛のトーマスさんから離れたらダメだよ」
「やったー!カイト大好き。あいじん第2号にしてあげる!!」
それダメなやつ!!
**********
聖アウグスト教会は巨大な建物だった。
背は周囲にある三階建ての建物の高さより数段高い。最上部にはさらに鐘塔が聳え立っている。
教会全体が少し高い位置にあるので、入り口は20段ほどの階段の上にある。
教会の警備だろうか、白装束に金の刺繍がされた衣装を纏った男が2人立っていて、中に入ろうとするとその男達に止められた。
「武器の携帯は禁止されております」
「では預かっていただけますか?」
「お断りいたします」
「えっと・・・。ではどうすれば良いのでしょうか?」
「武器の携帯は禁止されておりますのでお引き取りください」
武器を持ってきたら入れないわけか・・仕方がない。
僕は護衛のトーマスさんに剣を預ける。
「トーマスさんはここで待っていていただけますか?」
「了解です。」
「ビアンカ行こう」
「トーマス頼んだです」
教会のエントランスエリアを抜けると巨大な吹き抜けの大聖堂が目に入ってくる。
この吹き抜け部分は正方形の形をしていて、壁の上部には細長い窓があり光が差し込んでいるが、この大聖堂を照らすには少ない光量だ。
なのでこの大聖堂の床のあたりを照らすために至る所に灯籠が置かれている。
それでもやはり全体的に薄暗い・・・。
壁沿いにはこれまでの偉人、いや使徒であろうか?石像が並び立ち、その壁には巨大な壁画が描かれている。
入って右側の壁には神に跪き祈る人々と、神の元へ向かおうとする人々。
その背後には奇怪な生き物が描かれ、
左側の壁には神が光を照らし、黄色く輝く麦畑と、それを笑顔で収穫する人々。一方では葡萄を摘み、大きな桶の中で踊り喜ぶ人々などが描かれている。
どちらの神も後光に照らされてるが輪郭は朧げで人の形をしていると言うことしかわからない。
蝋燭の灯火の中、奥へ進む。
「なんか暗いね。神様はこんなところにいるの?」
ビアンカが僕の腰辺りを掴む。
「神様はここにはいないよ。いや、いるのかな? 神様はいつも見守ってくれてるからね」
正面の壁には鎧を着込み髭を長く伸ばした
「最初の使徒、英雄アーノルド。。」
カイトはボソリとつぶやく。
壁画の下は1段高くなり大きな棺のようなものが置かれている。祭壇であろうか?その前で白装束の男性が祈りを捧げている。
何人かが段の手前で跪きこちらも小声で祈りを捧げていた。
服装からして裕福な人たちだろう。おそらく貴族だ。
カイトも村で覚えたやり方で跪き祈りを捧げようとすると、ビアンカがその様子をじーと見つめてくる。
「どうやって祈るの?」
「跪いて手を前で組むんだよ」
「わかった。やってみる」
小声で神への感謝とこれからの祝福をお願いする。
祈りが終り立ち上がると、目の前に白装束の男性が気難しそうな顔をして立っていいて、僕たちに向けて手でこちらへ来なさいと言う合図をしてきた。
なんだろう? もちろんおとなしく従うけど・・。
「神の前では祈り以外の言葉は禁止です。他の方の祈りを妨げてはいけません。今後は気をつけてください」
聖職者と思われる白装束の男性から注意をされてしまった。
「は、はい・・・。
あ、あの・・この教会では魔法発現者の発掘を行ってると聞きまして・・」
「あなたは魔法が使えるのですか?」
「いえ、魔法が使えるかどうかを知りたくて。。」
「魔法の適正を調べるにはとても高価な魔道具が必要です。あなたのお名前と身分をお伺いしましょう。」
「カイトと申します。身分は・・とある貴族の息子です。」
男は舐めるようにカイトの全身を見回すと怪訝そうな顔をする。
「とある??」
「訳があり申し上げる事はできません」
「では、お断りします」
「そこをなんとか!!!」
「そちらの子は?」
男はちらりとビアンカの方を見る。
「ビアンカです!カイトのあいじんです!」
驚く男はカイトを睨みつける。
「いえいえ!愛人なんかではありません。そんなロリコンではありませんので!!」
慌てて弁解して、軽くビアンカの頭を叩く。
「パパもカイトもあいじん・・。」
「ロリコン?と言うのはわかりませんが、身分もはっきりしない人に高価な魔法具を触らせるわけにはいきませんね」
「ケチッ」ビアンカがつぶやく。
「いくら寄付すれば良いのですか?」
その言葉に、男はまたマジマジとカイトの全身を舐め回すように見る。
「教会に寄付を行うのは良い心がけです。では10000セルをお願いします」
剣と防具を買って残った金が12000セルある。
「そんなにですか・・。」
「寄付できませんか?」
「では、彼女も一緒にと言う事でどうでしょう。」
ビアンカの方をチラリと見る。
「わかりました。
私は助司祭のアベルです。では寄付がご用意出来ましたらまたお越しください。」
「今すぐ、寄付させていただきますので、今から魔法の適正を調べていただくことは出来ますでしょうか?」
「今すぐ!・・・・??
・・・わかりました。今日魔法具庫を利用できるか司祭に確認をしますので、部屋にてお待ちください。」
そう言って、僕たちは子綺麗な部屋に案内される。
******
小一時間ほど部屋で待っただろうか、
助司祭より明らかに格が高い法衣をまとった青黒い髪の女性が現れた。
「ご寄付をいただけるとの事、神も喜ばれる事でしょう。
それでは早速参りましょう。」
女性はそう声をかけると直ぐに歩き出す。
さきほどの助司祭と修道士らしき男性2名が付き従っている。
階段を何回も登った先に立派な鎧戸があり、女性が助司祭に鍵を渡し助司祭が鍵を開ける。
「お2人はこちらへ」
修道士の1人がその隣の大きめの部屋へ2人を案内した。
「まずはご寄付を頂戴いたします。」
修道士へ金貨と銀貨の寄付を預け部屋で待っていると大きな木箱を持った修道士と女性、助司祭が入ってくる。
「魔法具は非常に高価な物です。取り扱いはお気をつけください。」
助司祭は箱から先端に赤い宝石の埋まった小さな杖を取り出し、カイトに手渡した。
女性が口を開く。
「申し遅れましたが、私は司祭のベネデッタです。
では早速始めましょう。
お渡ししたものは魔法を使うための魔法具になります。
魔法具は術者の魔法の力を引き出す道具で、発現する魔法は魔法具によって違っています。
もし魔法を発現させる事が出来れば、使った魔法具に込められた魔法の適正があると言う事になります。」
カイトは魔法具を見つめた。
赤い宝石が美しく輝いている。
「その杖は火を発す魔法具です。
杖を火を発現したい方向に向け、、そうですね、奥の壁の方に向けなさい。
その先端についた宝石に心を集中するのです。そして宝石に頭で念じるのです。火よ出よと。」
「わかりました。やってみます。」
杖を前に差し出し、念じてみる。
「火よ出よ」
宝石が紅く光り輝く。
ポッ
ライターの火のようなものが杖の先端から出た。
「おおおおおーーっ」
助司祭と修道士から歓声が上がる。
「カイトすごい!!魔法使いだ!ビアンカ、カイトのあいじんになってもいいよ!」
誰もビアンカの声には反応しない。
魔法を発現させた少年に対して驚きを隠せないので、それどころではないのだ。
司祭も一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに真顔に戻り・・
「火の魔法に適性があるみたいですね・・・。 次をっ!」
助司祭は次の杖を取り出す。青い宝石がついた杖だ。
「次は水の魔法具です。その桶に向かって念じてください。」
青い宝石が輝く
チョロチョロ・・・
杖の先端よりコップ一杯程度の水が出た。
「おおおおおおーーーっ」
助司祭と修道士から先程より大きな歓声が上がる。
「2属性持ちか。すごいな」
司祭がつぶやく。
「次をっ!」
「おおおおおおおおーーーーっ」
さらに大きな歓声が上がる。
カイトは驚きよりも、心底ホッとしていた。これで魔法学園に入学出来ると。
**********
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