第14話 契約
クラークスのアルフレッド商会は通りに面した三階建ての商店とその裏に4つの倉庫と従業員の宿舎、厩舎、小舟が何艘か繋がれた水路で構成されている。
プールズ川を使った水運にはまだ参入できてはないがリブストンの商人が船で定期的に売買に来るらしい。
今の時期はバーン村など各地から集まった麦を仕入れに大手商会の船がリブストンや隣国のウエザビー大公国からやってきている。
これに乗せてもらえればリブストンには早々に着く事が出来るだろう。乗らないけど・・。
到着したその日は商会の食堂で従業員と一緒に夕食を頂いた後、商店の三階にある個室に案内された。個室は来客用らしく今まで泊まったどの村の宿よりも立派で、ベットはふかふか。旅で疲れた体をまるで「のび○君」のように秒で眠りに落させた。
次の日の朝、近くにあるだろう教会の鐘塔の鐘の音が大音量で響き渡って目が覚める。
まだ眠り足りないけど、鐘の音は延々と鳴り続けるのでもう寝るのは困難だ。
そのうち使用人らしき人が現れ綺麗な青い麻織物の服装に着替えをさせられると、昨日の夕方に食事をした従業員食堂ではなく三階のダイニングに案内された。
ダイニングには10人くらい座れそうな長テーブルがあり、入室すると左手に座るアルフレッドさんがにこやかに挨拶してくる。
「おはようございます。昨晩はお疲れでしたでしょう。良く寝られましたか?」
「おはようございます。・・・とても気持ち良い部屋でした」
そう僕が答えるとアルフレッドは自分の横の席にどうぞと合図をしてくる。
テーブルの周りにはアルフレッド以外にも、何人も人が座っていた。
・アルフレッドの座る席の奥隣には、黒髪の女性。歳は30くらいだろうか。
恐らく夫人だろう。
・その奥には7-8歳くらいの少年が座っている。子息かな?
・反対側の席には紳士な雰囲気を漂わせる70前後の男
・金髪で小太りの40前後の男
・旅で一緒になった
・その隣に10歳くらいだろうか、同じく
彼らの視線は全て僕に集まっている・・。
「さて、みなさん揃いましたね。紹介しましょう。私の横に座るのはカイトさん。
とある貴族様のご子息ですが、訳あってご一緒する事となりました」
席に座るとアルフレッドさんが皆に僕を紹介をしてくれる。
「春には皇都に旅立たれますが、それに私も同行しようと考えています。もちろん商売のためです。
無礼がないようお願いしますね」
チラリとカイトの方を向くアルフレッドさん。
「ご紹介に預かりましたカイトです。訳は申せませんが、皇都に向かう途中です。気軽にカイトと呼んでください」
貴族のような上品な言葉で喋れただろうか。内心ドキドキしてしまう。
「私はここの商店の支配人でアルフレッドの補佐をしているドムスです。滞在中にわからないことはお聞きください」
小太りの金髪男性が切り出す。
「ありがとうございます。」
「パパー。この人、頭ボサボサだね」
「ハハッ コイツは農村育ちだからな」
「・・・・・」
護衛のアクセルが女の子の言葉に答えるが、その一言でダイニングの空気が少し凍った。
「さあさあ!皆さん食べましょう。 神よ!毎日の糧をありがとうございます!」
アルフレッドが凍りそうになった空気を変えるべくそう言うとナイフを手に取って食事に手をつける。
それにしても、食事の前の神への感謝、雑すぎないか?
敬虔な真聖教徒であるカイトは小声でツッコんだ。(全く信じてないけど)
朝食はベーコンエッグと香ばしいライ麦パン。味の整ったスープでこの世界に来て以来最高と言えた。うまい!
そしてなんとベーコンエッグは陶器の皿に乗っており、木のスプーンと鉄のナイフが用意されている。
素晴らしい。日本にいるみたいだ。これまで泊まった宿でも昨日の食堂でも全て木の器だったしスプーンもナイフもなく全てをパンで食べていた。
これが貧富の差と言うやつであろうか?
***
朝食に感激した後はアルフレッドさんに呼ばれてアクセルと共に商会の執務室に連れてこられた。
「私はこれから溜まり込んだ仕事をこなす必要がありますので、カイトさんはその間自由に行動していただいて構いません。しかし見知らぬ土地は不安でしょうから外出する時はアクセルにお供をさせましょう」
その言葉にアクセルは少し嫌そうな顔をするが、
「ビアンカも連れいってあげなさい」
とアルフレッドに付け加えられるとおとなしく頷く。
「それとこの街で2ヶ月生活するのに貴族がお金を持ってないのもお困まりでしょうから、50000セルほどお貸しいたします」
アルフレッドは淡々ととんでもない金額の話を振ってきた。
そ、そんなにお金くれるの??!
僕は内心大喜びする。内心だけではなく表情に出ていたのだろう、
「差し上げるわけではありません。お貸しするのです」
少しビジネスチックな口調に変わった。
「これが借用書になりますので、サインをお願いします」
硬貨が沢山入った袋と紙とペンを差し出される。
この世界に来てちゃんとした紙なんて初めて見たよ。
えーと。どれどれ、、
借用書をまじまじと見る。
何が書いてあるのかさっぱりわからん!!!!!!
やばい。やばい。どうしたらいいの!!?
カイトはめちゃくちゃ焦っていた。
いや、表情にも出ていたのであろう、アルフレッドの表情が険しくなる。
「何か問題でも??」
貴族なのだから文字が読めないなんて事はもちろん言えない。
「問題ありません」
カイトは出来るだけ冷静になろうと心を落ち着かせるとそう答え、ペンを取った。
もちろん文字なんて書けない。
そうして署名欄にペンを押し当てるが、何も書けない。黒色が出ないのだ。
「・・・・このペン、色が出ないんですけど・・・」
「インクをつけてください」
あ、そうだった。慌ててインクをつけ、そして署名欄にふたたびペンをつける。
『浅井学』漢字でそう書いた。
アルフレッドは借用書に書かれた文字を見て驚く。
「ルーン文字・・・・? ですか?」
「ルーン文字??なんですかね?」
「私は詳しくないので読めませんが、見たことのあるルーン文字の特徴と良く似ています」
「そうですか」
「なんと書いてあるのです?」
「カ、カイト」
「それだけですか?」
「カイト アサイ??」
「アサイはセカンドネームで?」
「そ、そうなんです。うちの母ちゃんは アサイ家の人だったので」
しまった!動揺して母ちゃんとか言っちゃったよ。やばっ。
「ルーン文字にそんな真っ当な読み方があるのを初めて知りました。
それで・・何故ルーン文字で名前を書かれたのですか?」
「はははっ・・。
かあ、、。母上は南方のアーブル大陸出身でして・・奴隷としてこの国で売られていたところドレイン方伯に助けられたそうです。
私は母上に教育を受けたので、文字はこれしかわからないのです。
はははっ・・・」
ノベルの知識から遠い南方の大陸出身にしたら誤魔化せる!と考えた。
アルフレッドは少し考え込む表情をする。
「奴隷はこの国では神の教えに反すると廃止されたはずですが・・。
そうですか、ドレイン方伯が奴隷を助けたと・・」
不思議そうな顔をするアルフレッド。
「ルーン文字が理解出来るとなるとよほど高貴な生まれだったのでしょう。そしてお母様はよほどの美貌の持ち主なのではないですか?」
「かあ、、母上はとても美しい人でした」
「早く母上にお会いしたいです。ウウ・・・」
カイトは嘘泣きしてみた。
「わかりました。契約は成立です。あなたにこの50000セルをお貸しいたします。ご確認を」
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