皇都へ

第13話 旅立ち

馬車はゆっくりとデコボコの街道を走っていた。雪を被った山々が馬車が進むにつれ徐々に小さくなっていく。

カイトはそんな山々を眺めながらエレナの事を考えていた。


あれからエレナと顔を合わす事はなかった。小川の洗濯場にもやってこなくなった。

僕は今、失意の中いる。



「気を落とさないでください。

あなた様の身分でしたら、これから女性はいくらでも手に入れる事ができますので」


これで励ましているつもりなのだろうか。

一緒に荷台に乗る商人アルフレッドの言葉がウザい。


「女性は物じゃない。誰でもいいわけじゃない。エレナはとても、とても素敵な子だった。。」


商人の横に座る男がイライラしているのがわかる。

彼は赤茶色の髪に赤茶色毛の耳をしていて革の鎧を着込みロングソードを背負っている。


そして毛の生えた長い耳は半狼人族ハーフワーウルフ(ハーフワーウルフ)の特徴である。村には居なかったが、この国には半狼人族ハーフワーウルフは多い。ラノベのヒロイン候補にも半狼人族ハーフワーウルフがいるくらいだ。



「お気に触ったのなら謝ります。次の村には一件だけ宿がありますので、そこで今日は泊まりましょう。」


アルフレッドは半狼人族ハーフワーウルフの男を気にする様子はない。恐らく護衛なのだろう。


「これからですが、まずは私の商店に行きます。そこで私はいったん仕事に戻ります。秋の商売で商品と金が大きく動きましたのでね。しばらく滞在する事になると思います。

ですので、春の雪解けを待って皇都へ向いましょう。」

春まで待つのか・・・。僕はまだエレナショックでボーッとしている。


「その時は商品を積んだ商団を組みます。

私も商人ですので商いをしない長旅をする気はありませんので。

そこからプールズ川沿いを西に進みドレイン方伯のヨースランド領に入り領都リブストンに向かいます。」


「ドレイン方伯の領都リブストンですか?」

ラノベの設定を思い出した僕は顔を上げる。


「もしよろしければ、そこでドレイン方伯の城によってもよろしいですよ。」


確かに城に行けばゲイルが居るがしれない。

そう考えたが、雪解けを待つと2月末だ。そこから移動するのであれば、3月に入学するゲイルはもういない可能性が高い。

もしいたとしても城に行って呼び出すなんて出来るはずもないし、下手な事をして嘘がバレたらドレイン方伯に捕まって殺されかねない。


カイトはラノベ知識でドレイン方伯の恐ろしさを良く知っている。

冷や汗が出てきた・・。

ここはどうにか帝都まで行って登校するゲイルにアタックするしかない。


「もし領都までお急ぎでしたら、クラークスの港から川船を出すことも出来ますが、そうすると私には帝都へ向かう手段と理由がなくなります」


アルフレッドからすれば、ドレイン卿と顔繋ぎしてもらえればそれでも良いのだろう。


「いや、ドレイン方伯の城には寄らなくていいですよ。母はそこにはいないですし。」


「わかりました」


アルフレッドはカイトの様子からドレイン卿との関係はそこまで良くないと言う事を読み取った。

最悪ドレイン卿に直接繋いでもらうのではなく、カイトとカイトの母から人脈を広げていく必要があるかもしれないと・・。



*****



馬車の旅はけっこう遅い。一日に50-60kmくらいしか進まないのではないだろうか。道が悪くサスペンションが無いのでスピードが出せないのかもしれない。

まあ、馬の疲労を考えるとこのくらいが適度なのかもしれないけど。


宿がある村では宿で宿泊し、宿がないなら村外れに馬車を停めて休む。

この世界には盗賊や凶暴な獣がいる。ラノベでも学園の行事である課外学習の合宿に向かう主人公達に盗賊が襲い掛かり返り討ちにする場面があった。

寝込みを襲われないためには村など人がいる場所で休むのが良いのだろう。


クラークスの街にたどり着いたのは村を出発してから7日後だった。


******


この世界に転生して、いやこの世界に生まれてはじめての街であるクラークスは全てが立派に感じる。


今まで通ってきた村でも多少レンガ作りの建物はあったが、この街はほぼ全てが赤い煉瓦造りなのだ。しかも2階建てや3階建ての建物が多い。

どのくらいの人口の街かはわからないが田舎村で暮らしていたカイトにはとても活気があり賑やかに見える。

なんたって商店が軒を連ねているんだから。


「クラークスの街はには1万人は暮らしていると思いますよ。カイトさんが暮らしていた皇都とは比べ物にならない小さな街ですが、しばらくこの街で我慢していただければと。」

僕が街並みの素晴らしさに目を輝かせているとアルフレッドさんが声をかけてくる。


商店が軒を連ねるメインストリートを進むと街の一番賑やかな場所にアルフレッド商会はあった。


商店の入口はそこまで大きくないように見えたが、横手の馬車用の門から中に入るとイメージが変わる。アルフレッド商会の敷地はかなり広い。


レンガ造りの倉庫が並び、奥手にはプールズ川につながるだろう水路が見える。ここから小舟で河港にある商船へ行き商品を受け渡しするのだろう。


「アルフレッドさんはかなり大きな商会主だったのですね。」


「いえいえ、私など商人としては下の下です。この運搬用の馬車も10台運用するのがやっとです。」


「ご謙遜ですよね?」

帆掛け馬車のが10台も有れば秋の商売だけでも相当稼いでいそうに思う。


「もちろんどんどん増やして行きたいとは思ってますが、そのためにはより商圏を広げる必要がありますからね。出来れば商都とも呼ばれるリブストンで良い商いが出来れば良いのですが。」


アルフレッドはサラリとドレイン方伯の力をアテにしてるぞ圧力をかけてくる。


「そ、そうですね。リブストン・・は、とても大きな街ですしね。ハハッ」


ドレイン方伯と顔を合わせれば「死」しかない。そんなアルフレッドさんの圧力は全力回避したいカイトであった。


そんなこんなでクラークスの街での生活が始まる。


**********

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る