第3話 転生

体がグチャッと弾け飛ぶ瞬間は恐怖の瞬間だった。

体がビクンッと震えて飛び起きる。


「・・・・・」


僕は何故か室内にいた。


「・・・・・」

呆然としながらその見慣れない部屋を観察する。


薄暗い。窓の隙間から光が差し込んではいるが薄暗い部屋だ。

そしてボロい。汚れた木の壁。壁の隙間からもうっすら光が漏れている。立て付けが悪い。

寝ていた床には木の板が貼られているが、その板が見えなくなるくらいにその上に藁が敷き詰められていて、肌に触れてちくちくする。


そして僕は思った。


そうだ・・・・。ここは僕の家の寝室だ・・・。


何故か初めて見る景色のように思ってしまった。はははっ。


ルームライトでもつけようかな。薄暗いし。


「・・・・・」

「・・・・・」


ルームライトってうちの家にはそんな物ないし。はははっ。


「・・・・・」


えっ?なかったっけ?


ないない。朝になったら窓を開けて光を取り入れるんだよ。そう自分自身に回答する。


僕は窓を覆っている硬くなった雨戸に近寄ってグイグイと力っぱい上に押し上げた。


窓の外の光が一気に視界に飛び込んでくる。そこには青々とした麦畑と美しい青空が広がっている。

そして開けた窓から気持ちいい風が入ってきた。


あれ、窓にガラスが無いな。


「・・・・・」


ガラス??うちの家にガラス窓なんてないし。はははっ・・。


「・・・・・」


えっ??なかったっけ?


錯綜する記憶でなんだか訳がわからなくなってきた!





「カイト!!早く起きなさい。朝食できたわよ!」

混乱する頭を抱えていると、窓とは反対側の扉の奥から女性の声が響いてきた。


ドンッ!!

そして、扉が勢いよく開く。

「カイト!早く起きろよ!お前はほんとグスな奴だな!」


高校生くらいの年齢の外国人の男の子が扉から入ってきて怒鳴る。


「兄ちゃんごめん」

咄嗟に謝った。


僕に兄ちゃんなんていたっけ??

「・・・・・」


いやいや、いたな。いたいた。あれだ、

僕の4つ上の兄ちゃんトマスだ。


急いで隣の部屋に入るとそこはボロいテーブルを囲んで父ちゃんと母ちゃん。

5つ上の兄ちゃんケント、2つ上の姉ちゃんケリーが背もたれも無い木の椅子に座っていた。


「早く座りな」

母ちゃんが言う。



「今日もあなた様の慈悲によって、食事をいただくことが出来ます。我々の心はあなた様への感謝でいっぱいです。大いなる神よありがとうございます。」


僕が椅子に座ると母ちゃんが両手を前で握り目を閉じてつぶやく。


すると父と兄弟達も同じように言葉を繰り返す。


慌てて僕もあわせて神への感謝の言葉を口にする。


「神よありがとうございます」


テーブルの上の食器は木のコップが2つと水が入ったカメしかない。

パンはテーブルに直置きされている。

それどころかスープがテーブルに掘られた窪みに直接注がれている。


げっ!!!!

不潔すぎる!!


「・・・・・」

なぜそう思ったのだろう?

それが日常の光景だった。


「・・・・・」


いや、皿とかスプーンとか箸とか必要でしょ!!

また頭が混乱してきた。。。


家族の皆んなはパンをちぎってはテーブルの窪みに溜まったスープにつけて口に運んでいる。


僕も同じようにしてパンをちぎる。

硬いなこのパン!!


ちぎったパンをスープに浸すとじんわりとパンが柔らかくなるのがわかる。

それを口に入れる。


まずっ!!

いつも食べている食事なのに今日は特別不味く感じる。パンも日本では食べ慣れない超硬いライ麦パンだし、そもそもスープの塩っけが足りてないよ。これ。


まずくても腹が減った体は正直で、ペロリと平らげてしまった。もちろんスープも一滴残らずパンで拭って食べた。


朝食の後はとてもドス黒いテーブル拭きでスープが入っていたテーブルの溝を拭う。


神への感謝の言葉をもう一度述べて席を立ちあがる。

『そうだ!歯を磨こう!』と歯ブラシを探す。


もちろんない。というか、洗面所などない。室内には水カメしかない。


外ならありそうな気がして、ふらふらと外に行こうとする。


「何にも持たないでどこにいくんだい!」

母ちゃんが怒って言った。


そう言われてふと思い出す。

そうだ!僕の食後の日課は、料理や食事に使って汚れた物や雑巾、汚れた衣類を持って小川に洗いに行き、

洗った衣類は家の裏にあるスペースで干して・・・。

それが終わったら、水桶を持って村の中心にある井戸へ水を汲みに行く、それも何度も行かなければならない。


それが終わったら、薪を用意して・・・。

やる事は山のようにある。それが日課だった。


日課なのに何故かショックを受ける。


「あっ!学校行かないと。。」

僕は大事なことを思い出す。


学校学校!!学校で友達が待っている!


しかし、こんな格好で学校なんて行けない。

僕の着ている服といえばとんでもなくボロい。質の悪い麻の繊維と言うだけでなく、穴と継ぎはぎだらけで使い古した雑巾のように汚れている。

うちの学校には制服はないけど、こんなものを着て学校なんて行ける訳がない!!


「早く洗濯してきてくれるかい!」

そんな事を考えていると、またしても母ちゃんに怒られた。

うちの母ちゃんは怒りっぽい。


「行ってきます!」

学校の事は一旦忘れることにして、僕は慌てて洗い物をかき集めて家を飛び出した。


水洗いができる小川は家から10分ほど歩いたところにある。

ちなみに朝の小便はそこでしている。

だって家の裏の便所は臭いのなんの。出来れば使いたくないからだ。


家の外には4軒ほど別の家がある。もちろん平屋のボロい木造の家だ。

うちだけ特別ボロいわけではない。

このバーン村のほとんどは僕の家と同じようなボロ家ばかりだ。


家の周りには青々とした麦畑が一面に広がっている。ときおり吹く風になびく麦の様子が海を思わせる。

そして麦畑から視線を上げると夏だというのに雪をまとった山々が遠くに見える。

都会じゃ考えられない美しい景色だと、しみじみ感動してしまった。


僕の家は少し都心から外れたベッドタウンだけど、それでも林立するビルがあるのでこんな綺麗な景色なんて絶対に楽しめないし。


「・・・・・」


おいおい僕は何を考えてるんだ。

都会?ビル?


また頭が混乱してきたよ。



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