第10話 白銀
少年があーんと言って、一切れのかぼちゃの煮つけを死神の少女に手ずから食べさせようとしたのは。
単純に、こうした方がかぼちゃへの無限の想いを、しいては力を、死神の少女に渡せるからだと思ったからであり、死神の少女もまた、その考えの元、少年が箸で掴み口元に運ぶ一切れのかぼちゃを食べさせてもらおうと素直に口を開いた。
たわけこの緊急時に何を巫山戯ておるのだ自分で食す。
や。
偉大な私に傅きたい気持ちは分かるが時と場所を考えろ莫迦者め。
など、叱る言葉や。
この緊急時に乳繰り合おうなど畜生だな。
や。
私と乳繰り合おうなどおまえが幾度生まれ変わろうとも叶わぬ夢だ。
など、蔑んだ言葉が、死神の少女の口から飛び出す事はなかった。
え?
見た目は少女の我が娘と少年のイチャイチャラブラブシーンに突入はしないのですかって?
ええ、ええ。
場にそぐわないラブコメが始まっちゃってもいい感じだったのですが。
始まりませんでした。
「お父さん。妙な実況中継をしてないで寝ていてください。まったく」
「うむ」
「あの子なら大丈夫ですよ。あの少年と力を合わせて必ず吸血鬼の穴を埋めてくれます。例えば今回がひとつだけだったとしても、また来年があります。そのまた来年が。私たちには永久とも言える時間があるのですから」
「うむ」
「寿命を迎えた少年は死神に勧誘すればいいわけですし」
「うむ」
「はい。なので、安心して寝ていてください。まだまだ腰の調子は戻っていないのですから」
「うむ」
死神の少女の父親は死神の少女の母親の言葉に素直に従い、テレビのスイッチを消すと座布団代わりにしていた布団の中へと入って眠りに就こうとしたのだが。
「腰が痛くて眠れない」
(2023.10.25)
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