第2話 ルームメイトが超面倒臭い



 「直人!直人!」

 意識の何処かで、誰かの声が聞こえる。それを自覚した瞬間に僕の体は反射的に動いた。

 布団を豪快にぶっ飛ばし、部屋の中央に着地し臨戦体制をとる。

「おーっと、おはよう、直人!」

 そういえばそうだった、こいつがいるんだった。僕はそれを思い出すと、さっさと洗面所へ向かった。

 「なんだかんだ言って優しいよねぇ、直人って」

 僕は優磨が作った朝ご飯を食べていた…というよりは、食べさせられている、の方が正解であろう。

「何故」

「だってさ、俺を殴らなかったじゃん?」

「…前に殴ったら学園長だったからな」

僕がそう言うと優磨の僕の口に食べ物を突っ込む手が止まった。

「…マジ?」

「マジ」

優磨があり得なーいと今すぐに言いそうなそんな、絶妙に眉を顰め、片方の口が不自然に上がっている表情をした。

「だからさっさと別の部屋に行った方が良いんじゃないか?」

「それは無理」

「何故」

「だって部屋変えたら俺退学させられるもん」

優磨が目を閉じて、にっこりと笑った。

「…お前ってあ「あーん」…っ」

口に無理矢理スクランブルエッグが入ってくる。僕が優磨をやや睨みながら咀嚼しているのを見て、優磨はびっくりするほど笑顔を浮かべた。はっきり言って気持ちが悪い。何故俺の周りにはこういう変な人間しか居ないのだ。

「…優磨って変人だよな」

「えっ!?」

優磨が口を半開きにして驚いた。

「初めて言われた。俺大体温厚って呼ばれるから」

「…大体中学生にもなってルームメイトに食べさせないぞ」

「えぇー?食べるの面倒臭くなぁい?」

「この行為がバレて日常生活に異常をきたす方が面倒臭い」

「んじゃあ良いや」

「おい!「あーん」…っ」

口の中にはいちごヨーグルトが広がっている。

 「直人ー!もう朝の会始まっちゃうよー」

「先に言っといて」

 僕がそう言いながら布団を被ろうとしていると、突然腕を掴まれて立ち上がらされた。

「お、おい、優磨」

 それからはあっという間である。服を着替えさせられ、そして何故か軽く髪の毛をセットさせられ、そしていつの間にか教室の椅子に座っていた。

 心底思う。こいつの頭は大丈夫か、と。お節介も大概にしろ。

「はい、朝の会をはじめるぞー…」

 僕の担任であるこのクソ…通称田中ハゲ先生が僕を凝視する。

「こんちゃーす」

「これは…夢か」

そう言って田中ハゲ先生はぶっ倒れた。

「田中ハゲ先生ー!!??」

 …この通り、クラスメイトからもこう呼ばれている。

 その後、田中ハゲ先生は担架に乗せられ、高齢であることも加味して救急車で病院に運ばれていった。

 これで朝の会も無くなったわけだ、そう思って立ち上がろうとする後ろから腕が生えてきて首に抱き締められた。

「直人ー?勿論授業受けるよね?」

「嫌だ」

「直人?」

「……分かったよ…」

僕がそう言うと優磨は満足そうに微笑み、離れた。

「物わかりがよろしくて」

 それからの授業は死ぬ程暇だった。全部簡単だし、全部知っている内容だからだ。それに加え、この先生たちの話が超が付くほど面白くないのだ!!私立で、偏差値が七十を余裕で超えるこの学園の先生がだ!これは由々しき事態である。まぁ、超が付くほど面倒臭がりである僕は何もせず、受け身体勢であるのだが。

 何もしない人間に文句を言う権利は無い。これが僕のモットーである。

 「直ちゃーん!お昼ご飯食べよ?」

「…」

四時間目が終わり、食堂に向かおうと皆がゾロゾロと席をたっている。

「ほらほらー!立って!」

「うぁっ、おい、引っ張るな!つか、直ちゃんって呼ぶな!」

「えー?良いじゃん!」

「あと、そっちは食堂じゃない!」

僕がそう言うと優磨は「知ってるよ?」って至極当たり前と言うような顔で僕に振り向いた。

「お弁当作ったから」

優磨は少し大きい風呂敷を片手に持ち、ぶらぶらと軽く揺らした。

「はぁ?」

「学園長から聞いたよー?ご飯まともに食べてないんだって?ダメじゃん。ってことでね?食育しようと思って」

「余計なお世話だ」

「学園長から命令されてるからー」

優磨はそう言うとより一層僕の腕を強く掴んだ。

「あ、ちょっ、おい!」

僕は半端引き摺られながら中庭へ向かった。

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