人間不信の僕の学園生活と水
cran
第1話 僕が面倒臭い人間であることくらい分かってる
僕は人間不信だ。
毎日、いつものように朝を迎え、顔を洗い、朝食を食べ、その他の準備をして学校に向かう。休日以外はその繰り返し。終戦後比較的安全である日本であるこその、この当たり前。
人間は二つの種類に分けられると思う。積極的に行動するものと、そうでないもの。僕は後者であると、僕は思う。この変化のない、よく言えば平和なこの生活に不満を感じ、刺激を求めて行動することの意味を僕は感じれていない。よく社会論が書かれた著書を読んでみると、「才能の無い、唯の凡人が社会を動かし、才能のある一握りの人間が、それを後押しするのだ」と書かれている。
実際そうなのであろう。身の回りを見てみると、それが本当に感ぜられる。だからこそ、僕は尚更積極的に行動するものの気持ちが分からないのだ。
社会に貢献する、もしくは変えるとなると、当然ながら一人では不可能であり、やはり何人かの集団、仲間が必要である。信頼できる仲間が。
では、信頼とは何なのか。「未来の行動について期待すること」。これが辞書的な意味である。では期待とは何であろうか。「ある人がそれを実現することを待つこと」。「待つ」のだ。結局は。永遠に受け身。結局、人間は受け身からは逃げられない、つまり、消極的である。
こう言うと「人間は協力しているんだよ」と言われるのであろう。ならば結局は待っているのには相違無い。「様々な人と力を合わせて、目的の実現に向かって励む」。様々な人の力を待っているのだ。
この理論で行くと、決心した瞬間から何もかもを全て自分でやらなくてはならなくなる。
それは当然、不可能だ。
この様に偉そうに自論を展開したが、僕が最終的に言いたかったのは、僕が根っからの面倒臭いヤツであること、である。
今日も僕は、学園長に呼び出されている。
「直人君!!君はまた提出物を出していないねぇ!」
「退学にしてもらって構いません」
「はぁ、君は頭が良いんだからもうすこしやればできるでしょう」
「やれば出来てもやらなければ意味無いです」
これが僕たちのいつもの会話。所詮、僕の成績が良いから退学させたくないのであろう。
「取り敢えず!課題はきちんとやるように!ほら、寮に帰りなさい!」
いつもこうやって無理矢理帰らされる。本当に面倒くさい。
「数字しか見ていない化け物め」
寮の自分の部屋に入ると手を洗わずに風呂に冷水を貯める。その間に着替えを取り出し、洗濯機の上に置く。ここで違和感を覚えた者へ。僕はこの学園に入試得点満点で入ったことだけ、お伝えしておく。
浴室の扉を開け、風呂に冷水が良い感じに貯まっているのを確認すると冷水を止め、服を脱ぎ、扉を閉め、そのままダイブする。水飛沫が飛び、壁一面が水浸しになり、冷水は風呂の容量を超え溢れ出す。
「はぁ…」
皮膚が悲鳴を上げているのが感ぜられる。気持ちいい。手を思い切り振り上げ、水を顔にかける。頭皮を冷たい水がゆっくりと流れ、零れ落ちる。手をまた水中に戻すと若干水位が上がる。
それからいつものように三十分ほど浸かっていてそろそろ上がろうかとした途端、いきなり足音が鳴り響き、どんどん大きくなっていくのが聞こえた。そして、扉がぶっ飛びそうな勢いで開く。
「早まらないで!!!!!」
「…」
そこにいたのは緑色の髪を持った、甘い声の割にはがっしりしている男だった。
「もう!!自殺はダメなの分かってるでしょ!?ほら、上がるよ」
物を食べるのが面倒臭いせいで一日にポテチ一袋しか食べていない俺の体はそいつに軽々と持ち上げられ、段々温度を上げながら水をかけられ、タオルでぐるぐる巻きにされ、その間に恐らく化粧水やらなんやらをつけられ、タオル巻から解放されたかと思えば次は目にも留まらぬ速さで服を着させられ、ドライヤーで髪を乾かされ、まるで貴族のような待遇であった。…その割には人権がないように感ぜられるが。
「もう!本当にびっくりしたんだからね!!まぁ学園長から聞いてたんだけどさ!!なんでそんな簡単に自殺をしようとしちゃうの?俺は自殺を無理に止めない、だけど一言くらい相談してよ!」
「…自殺しようとしてないが?」
「…へ?」
沈黙が訪れた。
あの後、土下座をかます勢いで謝り倒された。流石に俺がドン引きするほどに。それはそれはであった。そして、彼は僕の新しいルームメイトらしい。鐵垣 優磨という名前だ。
「お前、「優磨」…」
「お前、「優磨」…」
「優磨優磨五月蝿い!」
「やっと呼んでくれたぁ」
僕は感じた。あ、こいつ面倒臭いヤツだ、と。
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