第4話
「なにかやることはないかい?」
「なにも」
「そう言うわけにもいかないよ」
「でしたら……」
そのまま椅子に座るように言われたぼくはいつのまにか目を閉じた。少し疲れているようだ。
きっとこの数時間でいろいろなことを体験したからだろう。
彼女はカップを片付けるために台所に立っている。
かちゃかちゃとなるコップの音が気になってもう一度何か手伝うことはないかと尋ねたが何もないと断られてしまった。
「怒ってる?」
「いえ」
「そう」
あっけらかんと答える彼女は機嫌が悪いのだろうか、ぼくにはわからない。
だからぼくにできることはここから彼女の背中を眺めることくらい。
「あら……風が」
彼女がそう呟くと台所の窓に垂れ下がった長さの違う金属の棒が揺れてぶつかり高い音を鳴らす。
不協和音以外の何物でもないその音にぼくは嫌悪感を抱いたが、彼女の背中は嬉しそうに小躍りを始めた。
「面白い?」
「はい。マスターは?」
「面白くはないよ、きみはどうしてそんなに楽しそうなの?」
「いずれわかりますよ」
「そう」
適当に相槌をうったが、おそらくわからないだろう。
ただひとつだけわかったことがあるとしたらぼくにとっては不快であったこの音が彼女にとっては面白い音色でいたく気に入っていることだった。
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