第2話 望まぬ転生しちゃった
我、魔王なり。
その前は親を亡くした子供で、その前はあらゆる知識を得た知恵者、大賢者と呼ばれていた。
で、今の我は魔王……ではない。
どこかの王国のどこかの田舎の小さな村の子供である。
なぜだっ!
転生など望んでいないのに、何度も何度も生まれ変わりを経験し、その度に苦い物を飲まされる人生だった。
特に一つ前の魔王時代は最悪だった。
だから、暇つぶしに勇者の意趣返しをし、自らの
しかも、なんだこの体は!
ぐぬぬぬっ、今度の生が一番の困難かもしれぬ。
唸っていると下の階から今世の母親から名を呼ばれた。
「早く下りてらっしゃい。ご飯よ」
「うむ」
仕方ない。
とりあえずダイニングで母親が作った朝ご飯を口にしてやろう。
その後、服も着替えず寝癖がついたままの姿で階下に降りてきた自称魔王は、幻の角が生えた母親にしたま怒られた。
「どうしたの? 朝から元気がないね」
我の顔を覗きこむ童の顔を父親譲りの三白眼でチロリと見て、ため息をつく。
むしゃむしゃと柔らかいパンを貪り食っていたら、幼馴染のこ奴が迎えにきた。
「いやだ」「行きたくない」と誘いを固辞していたら、再び母親にゲンコツをもらうハメになってしまった。
我、魔王……だったよなぁ?
しょうがないから、この我がお手々を繋いで教会まで童と歩いているというわけだ。
母親は村でも評判の美人でお淑やかな女性で村の女の子の憧れの的らしいのだが、今世の人族の女はあんなのがお淑やかの基準なのか?
凶暴すぎないか?
はて? 生まれ変わるまでにずいぶんと時間が経ってしまったのか?
我の家は母親は家で刺繍などの内職をしており、父親は大きな町にある冒険者ギルドという役所みたいな場所の職員をしている。
父親は高給取りらしいが、辺鄙なこんな村に住んでいるので信憑性はまったくない。
ちなみに、毎日朝出かけて夕方に帰宅しているが、村から大きな町まで馬車で二日ほどかかる距離だ。
父親は魔法が得意らしく、毎日転移魔法で通勤している……宝の持ち腐れか?
この村の周りには、危険な獣も魔物も敵国の兵も攻め込んでこないので、のほほんぼんやりと長閑な村だ。
ほぼ自給自足で、刺激を求めて都会へと行く若者もほとんどいない。
父親がその典型的なタイプだが、ここ村人たちは生まれ育った村が大好きすぎる傾向があるな。
……いいことだが。
我の手を引いている幼馴染の家は父親が行商人なので、普段は母親と二人暮らしだ。
我の母親と仲が良いため、魔王である我と平凡な童は幼馴染の関係である。
………………。
嘘を吐いた。
平凡な童ではない。
こ、こやつは……。
無邪気な顔で教会に集まった子供たちと挨拶を交わしている童の正体は……。
しかし、相変わらず女にモテモテだな。
ここには読み書きを習いに来ている同世代の村の子供が集うのだが、ほぼ全女子から好意を寄せられているぞ、あ奴。
そういえば、年上からもモテモテだったな。
我が母も奴のことがお気に入りだ。
我は教会の広い祈禱室の隅に固まる男たちを憐れんだ。
こいつに勝とうと思ってはいけない。
こいつは……。
「あ、シスター。おはようございます」
奴はシスターが祈禱室に入ってい来ると小走りに近づき、ばふんと勢いよく抱き着いた。
シスターも慈愛の微笑みを浮かべ、柔らかく抱きしめてやる。
そう、柔らかく……。
あ奴は、少し胸の谷間に顔を埋め過ぎではないかな?
おいっ!
別に我の体がツルペタだから僻んでいるわけではないっ!
我はこれから成長するのだっ、まだ十歳だからなっ。
これからサキュバスのような、エッッッロイ体になるのだから、別にシスターのたわわな何かが羨ましいわけではないのだっ。
はーっ、はーっ、何を脳内で喚いているのだ、我は。
ついつい、あの無防備でか弱い童が肉食女に襲われないよう日々警戒している身として、少々熱くなってしまった。
シスター?
あの女は、無害だから大丈夫だ。
あの女はな、
急に
ほら、神父が祈禱室に来た途端、童をやんわりと払いのけ頬をうっすらと染めて神父の元へと移動するシスター。
うむ、さすが人の子、欲望に忠実なのは神の僕だとしても変わらんなっ。
うっとりと神父の目じりの皺やら数本の白髪を見つめる気持ちは理解できんが。
「あっちに座ろう」
童がまた我の手を取り誘う。
我と童が手を繋ぐ……不思議なことよの。
前世では我は魔王なり。
そして、童、お前は……勇者なり。
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