『 藍紙奇譚 』

桂英太郎

第1話 「 幼馴染み 」

 話をしてくれたのは高校2年生のTさん(女の子)。髪をショートにしたばかりと云うことでいかにも初々しい印象だった。

 いなくなったのは彼女の幼友だち。家もごく近所だったので、一時は地域ぐるみで捜索をしたという。しかしその両親には娘が家出する理由は思い付かないし、それは失踪直前まで付き合いのあったTさんも同様だった。ただ一つ気になったのは、最後に会った時「学校があまり面白くない」、そう彼女がこぼしていたこと。二人はそれぞれ違う学校に進学したばかりだったので「そのうち友だちが増えれば」と、お互いに励まし合ってその時は別れた。そしてそれが幼馴染みとの最後となってしまった。

 Tさんによると友だちは平日の朝、普通に登校したまま行方不明になったとのこと。警察が彼女の携帯履歴もチェックしたらしいが、特に怪しいものは見つからなかったと、その両親から教えてもらった。

「ただね。今から思えば…」、そう母親は前置きしてTさんにこうも言ったと云う。「前日の夕食後に、あの子はテーブルで青い紙切れみたいなものをじっと眺めていたの」

 今ではTさんも『青いチケット』の話をよく耳にするらしい。しかしそれが自分の幼友だちに降り懸ったものと同じとは未だに思えない様子。確かにネットを中心に話題になっている一連の騒動は、どこかオカルティックに情報が歪められている印象がある。筆者が当事者たちと会うたびに感じるのは、やはり残された者達のやり切れない思いだ。もちろん元気で戻ってきて欲しい。しかしこの得体の知れない不可解さは何なのか、誰か分かるような説明をして欲しい。そんな行き場のない不安感。

 Tさんは喫茶店の席を立つ前にこう言った。「でも時々こう思うんです。もしかしたら、彼女はいなくなって正解だったのかもって。理由はありません。今は彼女の幸福そうな顔しか思い浮かばなくて」

 そう言って帰っていくTさんの後ろ姿はとても淋しそうに筆者には思えた。

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