第2話 転生してもブサイク
「なんだよこれ……!」
普通、転生したらイケメンになるんじゃないのか?
なんで、転生してもブサイクなんだよ!
鏡に映る自分は、髪や瞳の色以外、前の俺とほとんど変わらない。やたらと肌触りのいい白い寝巻も、全く似合っていない気がする。
「……い、いや、まだ、まだ可能性はある。とんでもないチート能力があったり……?」
座り込んだ瞬間、頭の中に膨大な記憶が流れ込んできた。
俺が転生してしまったこの男の名前はコルベット・フォン・デュボア。
21歳の若き伯爵で、何不自由のない暮らしを送っている。
しかし壊滅的に異性には人気がなく、舞踏会に行ってもコルベットと踊ってくれる女性はいない。
運命の相手と素敵な恋をすることを夢見ていたが、自分では無理だと諦め、現在は豊かだが寂しい生活を送っていた……。
「俺じゃねーか!」
思わず自分でツッコミを入れてしまう。どうやら俺は転生したものの、イケメンでもなければ、特殊能力を持っているわけでもないらしい。
「美人の幼馴染も、可愛いメイドもいないし……」
記憶にいた女性は、たった一人。
コルベットの母親だけである。
絶望して俺が頭を抱えたところで、コンコン! と激しく扉がノックされた。そして、返事をするよりも先に扉が開く。
「コルベット! まだ寝ているの?」
「……い、いや、今起きたよ、母さん」
今会ったばかりの女性を母さん、と呼ぶのには少し抵抗がある。
それにしても、かなり強烈な女性だ。
コルベットと同じ金髪碧眼だが、地味で冴えない顔をしているコルベットとは違い、派手な顔立ちだ。
体格が立派なのは同じで、とにかく存在感がある。
「朝食の時間よ。今日はコルベットに大事なお話があるの」
「大事な話?」
「貴方の妻についてよ。着替えて早く広間へいらっしゃい」
母さん……ガブリエルは、立派な身体に似合わない優雅な足取りで去っていった。
「……俺の妻について?」
どういうことだ?
俺に、結婚相手が?
とりあえず、着替えて広間へ向かおう。
気合を入れるために頬を叩いてから、俺はクローゼットを開けた。
◇
広間には長いテーブルがあり、朝食用にいくつもの皿が並べられている。
広い屋敷だが、使用人を除けば、ここで暮らしているのは俺と母親だけだ。
「とりあえず、食べなさい」
「……うん」
妻について、という話が気になって仕方ないが、同時に腹も空いている。
朝だというのに、品数はかなり多い。しかも肉料理が中心で、焼き立てのパンからはバターの匂いがする。
これは太るよな、普通に。
しかし、かなりの御馳走だ。ここは、しっかり食べるとしよう。
◇
「で、これを見てほしいのよ」
朝食が終わると、母さんはテーブルの上にいくつもの絵を並べた。
その全てに、美しい少女の肖像画が描かれている。
「貴方の妻候補よ」
「……俺の!?」
思わず大声を出してしまう。絵の少女は全員がかなりの美少女なのだ。とても、俺が釣り合うようなレベルではない。
「ええ。好みの子がいないかしら?」
「いやいや! むしろ、全員好みっていうか……」
黒髪清楚系美少女から、褐色の肌を持つ美女までよりどりみどりだ。多少は美化しているのかもしれないが、それにしたって全員綺麗すぎる。
「貴方が、美人な子がいいって言ってたから」
「ありがとう……!」
「どれも、家格じゃうちに釣り合わない子ばかりなのに」
母さんが分かりやすく溜息を吐く。
要するにこの美少女たちは、玉の輿狙いというわけか。
……いや、違うな。家のために、好きでもない男と結婚させられるのかもしれない。
「気に入った子はいる?」
改めて、全ての絵を見返していく。
正直、選ぶのが難しいくらい、全員が可愛い。
だが……。
「この子かな」
その中でも、特にタイプの美少女がいた。
薄桃色の長髪はふわふわとしていて、濃いピンク色の瞳は大きくてきらきらと輝いている。
可愛い、という言葉を擬人化したような少女だ。
こういう、とにかく可愛くて女の子っぽい子がめちゃくちゃタイプなんだよな。
「ルグラン家の子ね」
「ルグラン家?」
「聞いたこともないような下級貴族よ。しかも最近は懐事情が厳しくて、持参金も出せないらしいわ」
母さんは呆れたように溜息を吐いたが、俺と目が合うと穏やかな微笑みを浮かべた。
「いい子だといいわね。貴方の幸せが一番だもの」
「……母さん」
「ルグラン家には、すぐ連絡をしておくわ」
そう言うと、母さんは立ち上がって広間を出て行った。
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