非モテな俺が生まれ変わったらまた非モテになったので、美少女たちを幸せにしてやろうと思う
八星 こはく
第1話 来世はイケメンになりたい
「……コンビニ行くか」
ゲームのコントローラーを床に置き、あくびをしてから立ち上がる。
時刻は午後五時過ぎ。ちょうど、茜色の夕焼けが窓から差し込んでいる。
「明日一限なんだよな。しかも必修だし」
課題って出てたっけ、と頭の中で必死に思い出す。同じ講義を受けている友達がいないから、確認することもできない。
っていうか俺、大学に友達いないしな。
高校時代は少ないものの友達はいた。しかし一年間の浪人生活で、親しい友達を失ってしまった。
しかも第一志望の大学に落ち、現在は第二志望の大学に通っている。
うっかりキラキラした都内の大学に進学してしまったせいで、周りには全然馴染めていない。
そんな俺の趣味がゲームである。でもゲームだって、めちゃくちゃ得意ってわけじゃない。
RPGもノベルゲーもアクションゲーも、流行っていればまずはやってみる。そしてクリアまではするが、やり込んだ作品はない。
要するに俺は、男子大学生としても、オタクとしても、面白みのない人間なのだ。
中途半端だよなあ。飲み会行って男女で遊んで、なんて陽キャにはなれないし、コミケにガチったり、ゲームの大会に出るような本気のオタクにもなれないし。
「ま、考えてもしょうがないか」
立ち上がり、ズボンのポケットに財布を突っ込む。とりあえず、近所のコンビニで夕飯とお菓子でも買ってこよう。
◇
「コンビニ、結構高いよな」
これなら少し歩いてスーパーまで行けばよかった。でもたぶん、俺は次もコンビニへ行ってしまうんだろう。
「……あ」
あともう少しで家に戻れる、というところで、信号に引っかかってしまった。
ここの信号は、一度赤になるとなかなか変わらないのだ。
俺の後ろを、小学生たちが笑いながら通り過ぎていく。近所には小学校があって、朝や夕方はいつも賑やかだ。
振り向くと、女子小学生が二人、俺の後ろに並んでいた。身長的に、小学四年生くらいだろうか。
何が楽しいのか、見つめ合ってずっと笑っている。
俺にも、ああやって話す相手がいればなあ。
彼女が欲しい。なんて贅沢は言わない。けれどせめて、友達が欲しい。
新作のゲームが面白いだとか、コンビニの期間限定商品の当たりはずれだとか、くだらないことを気兼ねなく話せるような。
「はあ……」
溜息を吐いた瞬間、不意に後ろから強い風が吹いた。慌てて、ぐっと足の裏に力を込める。
「あっ!」
少女の叫び声があたりに響いた。
「にゃんちゃん!」
道路に、小さな猫のぬいぐるみが転がっている。たぶん、この風で飛ばされてしまったのだろう。
「待って!」
赤信号だというのに、少女は道路に飛び出した。そして運が悪いことに、大型トラックが曲がり、こちらへ向かってくる。
「りりちゃん!危ない!」
もう一人の少女が叫び、その子まで道路へ飛び出してしまう。
これ、やばくないか?
どうして、とっさに身体が動いたのかは分からない。
でも俺は、気づけば道路の真ん中にいて、二人の少女を突き飛ばしていた。
「「お兄さん!!」」
少女たちの叫び声は息ぴったりだ。
本当に仲がいいんだな、なんて、どうでもいいことを考えてしまう。
次の瞬間、大きな衝撃が俺の身体を襲った。
◇
「……っ!?」
目を開くと、見慣れない天井が目に入ってくる。しかも、天井につり下げられているのは煌びやかなシャンデリア。
おまけに、身体も全く痛くない。
「俺……トラックにはねられたんだよな?」
上体を起こし、きょろきょろと周囲を見回す。
「……嘘だろ?」
俺が寝ているのは、かなり大きなベッド。部屋にはいろんな家具があるが、どれもアンティーク風で高そうなものばかり。
「もしかして、いや、あり得ないけど、異世界転生ってやつ……?」
アニメやゲームでは何度も見てきたシチュエーションだ。でも、まさか、実際にこんなことがあるなんて!
まさかご褒美か? 子供を救った俺への、神様からのご褒美なんじゃないか?
異世界転生ってことは、やっぱり、俺にもチート能力があったり?
いや、それだけじゃない。美少女に慕われまくったりするんじゃないか?
こうしてはいられない。期待に胸を膨らませ、俺はベッドから起き上がった。
そしてとりあえず、顔を確認するために鏡の前に立つ。
「……は?」
そこに映っていたのは、金髪碧眼の、冴えないデブだった。
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