第11話 揺らぎ

「……どうして、こうなったの?」

「……」


 料理が完成し、完璧な姿となって食卓に並んでいる。リラとディレは、その椅子に腰かけているのだが、目の前のとある料理を見つめていた。


「いや、そのまま使っておいてあれなんだけどね……?」

「……」

「すごい、乱切りだね……断面はびっくりするぐらい綺麗なのに……」

「……」


 刃物は、ディレの得意とするところだった。鎌以外にも、ほとんどの刃が付いた武器なら扱える。包丁もまたしかりだった。


 がしかしだ。

 野菜の切り方など知るわけがない、、、、、、、、、、、、、、、


 まな板を前にしていた時、リラは火を扱っていた、そのため、どうにも邪魔をしづらく、自己流で刻んでしまった。


 リラ曰く、野菜それぞれに適した切り方でないと、火が通りにくいとか。そんなこと初めて知った。


「まあ、たいして問題じゃないから、気にしなくていいけどね。ほら、食べよう?」


 リラがテーブルの上のスプーンを手に取り、促してくる。ディレも習って食器を手に取った。


「いただきます」

「……いただきます」


 スープの他に、パンやサラダが並んでいる。どれから手をつけようものか、少しだけ頭を悩ませていると、リラは躊躇いなくスープの皿にスプーンを入れた。


「うん、美味しい。ちゃんと火も通ってる」


 自身もスープを掬った。少量の汁に、ごろごろと野菜が転がっている。あの人の物と比べても、既にこちらの方が美味しそうだった。


「ん……」


 一口含んで、味わう。

野菜の甘みと、調味料の旨みがふわっと広がり、じんわりと身体に染み渡った。


「どう? 美味しい?」

「……ん」


 コクンと首肯する。今まで食べた物の中で、ダントツで美味しかった。


「パンに漬けても美味しいよ」


 言いながららパンをちぎってスープに漬ける。


 じわじわとスープが染み込んで、やがてたっぷりと水分を含む。


 ポタポタと皿に滴るスープが、パンの孕んだスープの量を物語る。それをリラは頬張った。幸せそうな顔で、ゆっくりと味わっているリラ。こちらまでそんな気がしてくる。


「……ん」


 取り敢えず、言われた通りにしてみる。とはいえ、これが合わないはずがない。これが美味なのは明らかだろう。


「……!」


 案の定、美味しかった。


 ◇◇◇


「ふう、ごちそうさま」

「……さま」


 あれから数分後、皿の上の料理を片付けた二人は、お茶を片手に落ち着いていた。コップから漂う艶やかな香りが、二人の鼻腔をくすぐる。


 コップに揺れる琥珀色の液体を一口含んで、ディレは口を開いた。


「……さっきの、理由って……?」


 心地良い満腹感に煽られてか、自分でも意外なことに、自然にリラに問うていた。それを、少し驚いたような顔をして、リラが受け止める。


「あ〜、それはね……」


 戸惑うように眉を顰めて、お茶を一口啜る。その音の立ちすぎない上品な飲み方を披露して、リラは片目を瞑った。


「やっぱり、また今度。今はダメ」

「……?」

「あ、ディレに話したくないとかじゃなくてね? 私が話す勇気がないだけ……」


 思っていた以上の重い反応を受けて、ディレは言葉に迷う。踏み込むべきか……それとも留まるべきか。人との関係がそこまで深くないディレは、そこで正しき選択を選べない。あるいは最悪の選択すら取りかねない、故に黙っているしか無かった。


「ごめんね、しんみりしちゃって。さ、もう寝ようか」

「……ん」


 すっくと立ち上がると、リラは食器を洗いに行ってしまった。皿洗いぐらいは手伝おうと、自身もキッチンへと足を向けた。

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