第9話 他が為の呪法

「……私は、呪術しか使えない、、、、、、、、の」

「え……」

「魔法に、適正がないみたいなの。だから、私には魔法が使えない」


 動揺と納得、正と負が入り混じった複雑な感情が、荒んだ自動人形オートマタの心を揺らす。魔法が使えない、そんなことが果たしてあるのだろうか? しかし、疑っても仕方ない、現に彼女は今、魔法を使っていない。


 しかし、それならば新たな疑問も湧いてくる。


「あの時の魔法は……?」

「ああ、あれはね、魔晶石を使ったの。だから私にも魔法が使えたの」

「魔晶石……?」

「あれ、知らない? 自然にできる物なんだけど、魔力が集まりやすいところに、その魔力が結晶化してできるの。それがあれば、誰でも魔法が使えるの、もちろん限度はあるけど」


 知らなかった、そんなものがあったとは。魔法については、ほとんどのことはあの人から聞かされていた為、知らないことは少ないと思っていたが、彼女と出会ってすぐに、新たな知識が増えるとは思わなかった。彼女や、老婆の反応を見るに、基本知識らしい。


「なる……ほど……」

「そんな顔しないで? 私はこれでいいの」


 どうやら、無意識に暗い顔をしてしまったらしい。一丁前に顔に出やすいのだから、自身を呪う。それとも、あの人がそう創ったのだろうか。


「呪術は禁術かもしれない、でもね、『薬も毒も紙一重、魔法も呪術も使いかた次第』って、お父様が言ってたの。私は、この力が村の人たちの為になるなら、それでいい」


 真っ直ぐに、ディレの瞳を見てそう語るリラ。その声には、確かな覚悟と、慈愛の色が混じっていて、なぜかディレ自身も暖かい気持ちになった。


 彼女は、やさしすぎるのかもしれない。


 これではいつか陥れられてしまうのではないかと、下らない妄想が脳裏をよぎる。いや、それはないだろうと首を振る。この村の人々は、ディレが思った以上に心がある。彼女を利用しようとするような人間は居ないだろう。


 この村には、リラに感じたような不思議な暖かさがある。


「私は、リラがいいなら、別に……」

「うん、大丈夫」


 少し口元を緩ませて、窓の外を見やるリラ、すでに空は夕焼けに染まっていて、黄昏の空気を纏っていた。


「いけない、もうこんな時間! すみません、長居してしまって」

「いいんだよ、それに、元はあたしが呼んできてもらったんだしねぇ」


 差し込む夕日に気づいたリラが、少し焦って腰を持ち上げた。つられてディレも立ち上がる。


「でも、村長さんのお夕飯が……」

「あはは、気にすることないよ。爺さんは今頃畑にでもいるさ。それにねぇ、年寄りの夕飯ってのは、存外遅いもんさ」

「すみません、じゃあ、失礼します……!」


 そそくさと入口まで歩いていくリラ、確かに彼女老婆を治癒するという目的は果たしている。これ以上ここに留まる必要もないだろう、それに、元はと言えばディレが話を長引かせてしまったのだ。


「……」


 一応、一礼してリラに続く。老婆は背後で手を振って送ってくれた。


「またいつでもおいで、ディレちゃんもねぇ」


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