【11】罪深き恋
誉side
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「あんず、野良猫はどうした? 今夜は実家に泊まるのか? それとも実家に戻る気なのか?」
彼女がいないと、何故か物足りない。味の薄い味噌汁を飲んだ時のような、味気無さを感じる。
「ご主人様、椿様は今夜はお友達のお宅に泊まるそうですよ」
「友達?」
「はい。気になりますか?」
「誰が気になるものか。彼女はわが社の社員。ホームレスにするわけにいかないから、泊めたまでだ」
「もしその社員が、男性でもそうなさいますか?」
「男性? 泊めるわけないだろう。男なら何処にでも寝泊まり出来る」
「では椿様以外の女性ならどうなさいましたか?」
あんずはくだらない質問を俺に浴びせた。
「彼女みたいに無計画で無鉄砲な社員は、他にはいないよ」
「椿様だから、お泊めになったのでしょう」
「バカな」
あんずの言葉に反論しながら、確かに一理あるかもしれないと思ってしまう自分がいる。
「味噌汁お代わり」
「はい。畏まりました」
あんずはいつものように、メイド服のミニスカートをヒラヒラさせてキッチンに戻る。
もしもあの時、偶然道で逢ったのが彼女でなかったら、きっと俺は気付いてはいないだろう。
セントセシリアホテルで彼女と鉢合わせをして、見られてはいけないものを見られてしまった気まずさと同時に、彼女の相手が一体誰なのかが気になった。
わが社の社員、同じ銀座店ならば店長の幹亮介しかいない。あとはアルバイトの木葉羅瑠久。
社内恋愛とは限らない。
得意先や他企業の男性かもしれない。
ただひとつ気になったのは、幹亮介があの日彼女を送ったと発言したこと。幹は妻子がある身。穏やかな性格で、真面目な男だ。同じ店の女子社員に手を出すとは考えられない。
だとしたら、彼女の恋人は……。
「ご主人様、お味噌汁が冷めますよ」
「ありがとう。あんず、たまには一緒に食べないか?」
「滅相もございません。わたくしは使用人です」
「目の前に誰か座ってないと、落ち着かないものだな」
「ご主人様らしくもない。今までずっとお一人で召し上がっていらしたのに。それに一人になりたくて、恵比寿の御実家を飛び出されたのでしょう」
「俺らしくないか。そうだよな、俺らしくないな」
檀ゆりとのスキャンダラスな関係が父に知れると、成明に社長の椅子を奪われてしまう。その危機感もあり、先日ゆりには手切れ金を支払い、関係は解消した。
今は社長と秘書。
それ以上でも以下でもない。
食事を終え、リビングで寛ぐ。
「あんず、片付けが終わったら、今日はもう下がっていい」
「はい、畏まりました」
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