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 店を閉めて、桃花ちゃんと六本木に向かった。


 六本木のショットバー花梨。

 店内はシックで落ち着いた雰囲気。大学生の集まる店というより、周辺にはスーツ姿の男性や大人の女性が集う。


 カウンターに視線を向けると、木葉君が一人で飲んでいた。


 イケメンの木葉君。

 グラスを傾ける姿も、さまになっているな。


「木葉君、お待たせ」


 苦い恋をしているから、甘いお酒で自分を酔わせたい。


「椿さん。杉山さん……」


「木葉君!? 椿さん、ビタミン剤って……」


「木葉君と三人で飲もうって約束したの。桃花ちゃんを脅かすために、ちょっと意地悪しちゃった。店長には秘密ね。ほら、誘いを断り追い返したから」


「ですね。了解です。木葉君と三人だなんて、驚きました」


 木葉君も本当は驚いているはず。でも一切顔には出さない。本当に大人だな。


「椿さん、杉山さん、何飲みますか?」


「そうだな、甘いカクテルがいいな」


 木葉君の隣に桃花ちゃんを座らせて、私はソファーの端に座る。


 疲れた顔をしていた桃花ちゃんが、木葉君の隣でイキイキしている。


 恋のパワーは凄い。

 萎れた花を一瞬で生きかえらせる。


 アルコールに浸すと、給水出来るんだよね。


 社長が施したテクニック。

 目の前のカクテルに小指をつける。


 私も生き返りたい。

 あの花みたいに。


「椿さん、どうかしました? 元気ないですね?」


「そんなことないよ」


「椿さんは結婚願望ないんだって」


 桃花ちゃん、今言っちゃうの? でもいっか、木葉君が私に愛想をつかしてくれるなら。


「そうよ。目標は早苗さん。私はキャリアを目指しているから」


 早苗さんは目標だけど、キャリアなんて目指してない。そんな才能も実力ないし。


「俺は結婚願望あります。すぐにでも結婚したい。可愛い赤ちゃん欲しいし、若いパパになりたい」


「やだ、木葉君たら」


 桃花ちゃんはプロポーズでもされたみたいに、頬を赤らめた。


「木葉君も桃花ちゃんも、その気になれば若いパパやママになれるよ。私はどう頑張ってもムリだから、パス」


「俺、そんなつもりでは……。気を悪くしたならすみません」


「やだ、謝らないで。私何とも思ってないから。本当のことを言っただけ」


「今は四十歳で初産する人もいます。結婚平均年齢は三十歳以上ですよ。椿さんはまだ圏内」


 桃花ちゃん、フォローになってないから。それ過ぎたら、圏外なの?


 結婚しなくてもいいから。

 子供生まなくててもいいから。

 私は生涯女でいたい。


 檀ゆりのような生き方は出来ないけど、それでも恋をしていたい。


 三人でいると、一人だけ価値観が違うことに、今さらながら気付く。


 話題も微妙に噛み合わないし。結婚に憧れる二人と結婚を諦めた私。


 噛み合わなくて当然だ。

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