第12話 姫をダメにするスライム

 ギルドに帰った後、メイヴィス姫は受付のお姉さんに叱られた。もう、お迎えの騎士が来ている。


「メイヴィス姫、ご無事なのは何よりですが、王国に黙って出ていかれては困ります」


「だって、またお見合いの話なんだもん。もううんざりよ」


 姫様は、見合いの席で脱走してきたらしい。


「そうおっしゃいますが、お世継ぎを産んでいただかないと」


「わたし、エルフの夫なんてイヤよ。ナルシストだし、頭が前時代的だし」


「とはいえ、ドワーフの男は、もっとひどいですよ? 亭主関白で、大酒飲みですよ?」


「だから、わたしに結婚する気なんてないのよ」


 受付のお姉さんの言葉にも、姫は耳を貸さなかった。


「どうして、結婚をしたがらないんです?」


 コルタナさんに、質問してみる。


「エルフは、寿命が長いからよ」


 そっか。コルタナさんだって、二〇〇歳を超えているんだよね。ずっと付き添わないといけないから、配偶者選びは慎重にならざるを得ない。


「とにかく、帰らないから。父上にもそうお伝えなさい」


「勝手は困ります、姫様!」


「コルタナが一緒だから問題ない、と言っておきなさい」


 突然ムチャぶりをされて、コルタナさんが困惑している。


「今日は、我々が面倒を見るわ」


「いいでしょう。ダンジョン以外なら、メイヴィス姫もムチャができませんし」


 コルタナさんと受付さんが話し合う。


 姫は「やった」と腕を上げた。


『よかったですなあ、姫様』


「母国を脱走した甲斐があったわ」


 メイヴィス姫は、ボクたちの家に泊まることになる。


「おお、もう改装ができてる」


「異世界からお姫様が来るってんで、大急ぎで改修した」


 王族がお泊りすることは、ボクの動画ですぐに伝わっていた。建築会社は急ピッチで、ボクの家を改造してくれたという。


「ベッドまでついてる」


 お姫様がお泊りするためか、寝室が一新されていた。


「お礼を言うわ、戦士センディ」


「代金は、王族が持ってくれるらしいからよお。問題ないって」


 センディさんには、多額の報酬が振り込まれているという。 


「ではお世話になるわね。ツヨシ。ワラビちゃん」


「よろしくお願いします。じゃあ、お風呂をどうぞ」


 ボクは浴室に向かい、お風呂を沸かす。


「いい香り。薬草よりキツくない。それでいて、雑草より土臭くないわ」


 メイヴィス姫が、深呼吸をする。


「畳の匂いだね」


 浴室から音楽が鳴って、お風呂が沸いたことを知らせる。


「ワラビちゃんと一緒に入っても?」


「どうぞ」


「じゃあ、遠慮なく」


 姫がオフロに入っている間に、従者のコンラッドから話を聞く。


「メイヴィス姫様って、地球に何をしに来たの?」


『あなたに会いに来たのだ。注目のスライム使いに』


 それは、ダンジョンでも聞いた。


「ボクの活動って、異世界でも配信されているの?」


『こんな感じで、我が世界でも公開されている』


 コンラッドが、手をかざす。


 手の上から、モニターのようなウインドウが映し出される。こちらの文明より、進んでいるじゃないか。


『向こうには、スマホといった高度な文明はないからな』


「それでも、すごいじゃないか」


 この機能があったら、スマホいらずだ。向こうの世界は、自分たちの利便性を知らないのかな?


『情報伝達、いわゆる動画配信程度しかできんのだ』


「十分すぎるよ」


『誰でも持っているから、最新機種を見せびらかしてイキったりできん』


「イキってる人の方が、おかしいんだよ」


 見栄を張るためにお買い物なんて、散財もいいところだよ。


「異世界にも、配信があるんだね?」


『我が世界が、こちらにどの程度影響を及ぼしているか、チェックが必要なのだ』


 大昔から、異世界と地球は繋がっていた。とはいえ、どの程度世間に認知してもらうかが課題だったという。ネットや配信業が普及し、政府はようやくダンジョンの存在を世間に公表した。それでも、理解してもらうまでまた数十年かかるわけだけど。


「ところで、遅いね」


 姫が入浴して、結構な時間が経っている。


「髪を乾かしてるんじゃね? 姫様、髪が長かっただろ?」


「ちょっと、様子を見てくるわ」


 料理の手を止めて、コルタナさんが浴室へ。


「ワラビちゃんを抱きしめながら、ぐでーっ、てなっていたわ」


 呆れ顔で、コルタナさんは戻ってきた。


 のぼせていないなら、放っておくか。


「お風呂をいただいたわ」


 さらに三〇分が経ち、メイヴィス姫が湯気を連れてきた。お泊りセットなのか、モコモコのパジャマ姿になっている。外泊前提で脱走してきたのか。


「ワラビちゃん、すごすぎでしょ。一瞬でわたしの髪を乾燥させるし、デトックスまでしてくれたわ」


「いい香りがしました」


 ワラビも、お姫様と交流できて楽しそう。 


「えと、一応、ご両親に報告しておいたほうがいいよね?」


「それもそうね。あなたのスマホを、お借りしていいかしら?」


 どうせなら、配信で伝えたいそうだ。


「父上、母上。メイヴィスです。わたしは無事よ」


 まずメイヴィス姫は、お見合いをダメにしたことを詫びる。


「しばらくは、地球にとどまるわ。もっと自分に何ができるか見つめ直したいの。このお屋敷を拠点として」


「え!?」


 こちらで当分世話になることを、姫様が告げたんだけど?


(第二章 完)

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