第10話 緊急ミッション発動

 ギルドに戻って早速、アイテムを換金する。他のドロップアイテムを処分しても、お釣りが来た。すごいな、あのダンジョンは。


「数日潜って出てを繰り返して、ボスの生息地を探しましょう」


「はい。同行ありがとうございました」


「いいのよ、ツヨシくん。私も、あそこは深く潜りたかったし」


 コルタナさんも、珍しい薬草を見つけられてうれしそう。


「あそこの木材を、ある程度拾ってこられたのはデカい。畑近くの木材もいいんだけど、あっっちの木々は魔素を吸っているから丈夫なんだよ」


「そうなんですね」


 センディさんが、そう教えてくれた。


「あの木材で、風呂を作ろうと考えているんだ」


「お風呂ですか」


「ああ。露天風呂を作って、回復の泉みたいにしたい」


「いいですね」


 風流だし、体を癒やすこともできるなんて。想像をするだけで楽しそうだ。


「とはいえ、ダンジョンの木材って、拾ってきて大丈夫なんですか?」


 もし法律とかで、ダメだったら。


「ギルドから許可をもらえたら、平気だ」


 ちゃんと申請しておけば、ダンジョンの壁や構成素材を持ち帰ることは可能だという。

 そりゃあそうだよね。薬草も拾ってくるし、鉱石を彫ったりしているもん。

 でも次の日には、また元通りに再生しているから。


 ならば、安心して伐採してこられるか。


「ワラビ、持って帰れそう?」


「問題ありません。マスターツヨシ。ワタシの体内は無限ですので」


 細胞レベルまで、アイテムを圧縮できるという。


「中で、溶けちゃったりしない?」


「お腹が空いていれば、その限りではありませんが」


 ジョークなのかガチなのかわからない返答が、ワラビから返ってきた。


「よろしく頼むよ」


「はい。心得ております。マスターツヨシ」


 さて、お待ちかねの装備更新だ。

 拾ってきたカブトムシモンスターの角を、武器に加工してもらう。


「いいやつを拾ってきたなぁ」


 センディさんの運営する装備品のショップで、アイテムを作ってもらえることになった。


「オレの家は、ダンジョンに関する事業で成功したんだよ」


 探索用ドローンや携帯食料、軽くて丈夫な護身用アイテムなど、ダンジョンに関わるあらゆる装備を作ってきた実績があるらしい。


「といっても、ほとんどがキャンプギアの流用なんだけどな」


 センディさんの実家は元々、場末のアウトドアショップだったそうだ。そこから大きくして、今やダンジョン関連においては大企業になっている。


「息子さんが現場に行くのって、危険じゃないですか。両親から反対されたのでは?」


「もちろんな。だから、そんな深くは潜らないようにしているんだ。つっても、たいてい好奇心の方が、勝っちまうけど」


 常に新しいものに目を向けて、事業を発展させていくのが、楽しくてしょうがないらしい。そのためには、危険にも足を運ぶ。


 センディさんは、前向きだなあ。


「よし。完成したぜ」


 センディさんの鍛冶スキルで、ボクの武器が完成した。


「もうですか?」


「ほとんどが、金属物質だったからな。鉱石を混ぜて、剣にしてみた」


 それでも、随分と軽い。昆虫の体を、構成していたからだろう。


 他は、カブトムシの甲殻を胸当てにした。金属プレートより、三倍は軽くて丈夫らしい。


「たとえ少しずつでも、武器が強くなっていくのは、ワクワクするよな。これがハックアンドスラッシュの醍醐味だ」


 自身も装備を更新して、センディさんは声を弾ませる。


 家に帰ると、小屋が一新されていた。建て増しどころか、もはや古き良き日本家屋である。元々あった小屋は、お風呂場になる予定だとか。変わっていないのは、原付があった物置くらい。


「畳がいい香りですねえ」


 床に寝そべって、畳の匂いを嗅ぐ。


「すばらしいです、マスターツヨシ」


「だよねえ。ワラビ。このまま寝ちゃいそうだよ」


「まだです。入浴して、汚れを落とさないと」


「そうだったね」


 センディさんとコルタナさんは、後で入るという。


 この内湯が、近いうちに露天風呂になるわけだ。楽しみである。


「豪勢ですねえ」


 今日の夕飯は、山菜とキノコのソテーだ。


「これを採りに行っていたんですね?」


「そうなの。あそこのキノコは、貴重なの。危ないから、依頼がなければもう採取には行かないけど」


 研究用のサンプルを、採ってくる依頼があったという。その品を、ギルドから少し分けてもらったらしい。


「今後、このキノコを養殖できるかどうか研究するらしいわ」


「量産できたら、マツタケより安価でそれなりにうまいキノコが安全に食えるぞ」


 それは、楽しみである。

 


 

 翌日以降、ボクはすがすがしい気分で探索を開始した。


 何度もダンジョンを探索し、いよいよボスというところまでたどり着く。


 案内役のコルタナさんが、森を進んでいる途中で急に立ち止まった。


「どうしたんですか、コルタナさん?」


「緊急ミッションが、発動されているのよ」


 冒険者専用のネット掲示板には、『家出した姫様を救出せよ』と、書かれている。


 なんでも、とある異世界のお姫様が、従者のゴーレムを召喚して家出したらしい。


「オレたちには、関係ないんじゃねえか?」


「そうですよ」


 ボクたちの行き先にお姫様が迷い込むなんて、そんな都合のいい奇跡なんて。


「フラグにしか、聞こえないわ」


「マスターツヨシ、あそこに女の子が倒れています!」


 ワラビの案内で、ボクらは草木をかき分ける。


「おい! ここ、ボス部屋の手前じゃねえか!」


 大木に背を預けながら、女の子が息を切らしていた。フード付きのローブを着ているところから、魔法使いタイプとうかがえるが。


 少女は、複数の魔物に囲まれている。トレント、ウルフ、手足の付いたキノコたちが、少女を狙う。


『ムムー。姫には、指一本触れさせませぬぞ』


 一体のアイアンゴーレムが、彼女を守っていた。


 この娘は、サモナーか。


 少女が首を倒して、顔を覆っているフードがめくれた。


「ツヨシくんっ。探しているお姫様って、この娘よ!」

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