懐かしき母の姿
外が暗い。
薬が効かなかったのか……?
(違う薬処方してもらわないと……ってあれ?)
「あ、目が覚めちゃった? 起こさないように気をつけていたんだけど、ちょっと注意が足りなかったかな」
一人のはずの部屋に、誰かいた。
博子は手の甲で瞼をこすって、声のする方にのろのろと顔を向けた。
すると、捲り上げられた掛布団が目に映る。
いや、まだ焦点が合わずどこかぼんやりした視界に飛び込んできたのは、掛布団だけではなく、お腹の上までたくし上げられたネグリジェもだった。
「な、何……!?」
博子は慌てて体を起しかけた。
「駄目よ、おとなしくしていてちょうだい」
声が聞こえると同時に両肩を敷布団に押しつけられてしまう。
その相手が
「お母さん!? え、なんで……死んだはずじゃ……それより何してるの?」
思わぬ事態に博子は身をよじった。
しかし、両肩を押さえつけられてしまっている姿勢では、どうすることもできない。
「何って……おむつを取り替えてたのよ」
「おむつを……!?」
実は私は、人生でおむつを当てていなかった期間のほうが短い。
というのも、何度も卒業してまた必要になってを繰り返していた。
……最後に必要だった時期は大学時代。母が亡くなった時に、またオムツが必要な期間が始まったのだ。
もちろん今は当てていない――はずなのだ。
大学を卒業する直前に、オムツも卒業したはずだった。
「さ、できた。
お母さんは博子のお布団を干してくるから、はやく学校の支度をなさい」
「あ……待って……」
行ってしまった。
記憶にあるよりも、大分若い……今の自分と、同年代の母にオムツを替えられた。
部屋を見渡す。
……今住んでいる私の部屋で間違いない。
鏡には、間違いなく今の私が、しかしあのときのオムツ姿で映っていた。
「まだしてなかったの?
ほら、手伝ってあげるから、遅刻しちゃうわよ」
「え、何が?」
「ほら、ちっちが上手、ちっちが上手……」
「え……あ…」
…………
……………………
「え……夢? あ!?」
大慌てで布団を剥ぎ確認する。
……無事だった。
部屋に母が居なければおねしょもしておらず、オムツだって当てていない。
(それにしても……なんであんな夢を……)
私の小学校は、集団登校だった。
だから、登校中に皆の前でオモラシするのが嫌で、登校中我慢を通すのが難しくて。
だから家を出るまでに一度はオモラシするのが習慣だった……
あのときは、トイレは入れなかった。
それはともかく、体は軽い。
とても良く眠れたようだ。
私は、副社長にお礼を言うことにした。
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