第15話 幸せになった私
あれから私は校内で晴臣お兄ちゃんとはよく会うようになり、何回か会っているうちに晴臣さんと呼ぶ様になった。
晴臣さんはとても素敵な男性だ。
外見もそうだけど一番惹かれるのは、あの時の私達兄弟に手を差し伸べてくれる心根の優しさだ。
ひもじさに苦しむお兄ちゃんに給食のパンを分けてくれた事もあるみたい。
人間としても凄く尊敬出来る男性だと思う。
晴臣さんが卒業する時に私から告白して、私達は恋人同士になる事が出来た。
そして二人でお兄ちゃん達のお墓に報告にも行った。
その後も私達は順調にお付き合いを続けていた。
やはり晴臣さんは素晴らしい人だ。
子供の頃に私達の境遇を目にしていたからか、空腹に喘ぐ人達へのボランティア活動も精力的に行なっている。
恋人としても満点で、近いうちに一条家へも挨拶に来てくれるみたい。
でも時折、暗い顔になっているので何か話せない悩み事があるらしかった。
ーーーーー
とうとう晴臣さんが一条家へ挨拶に来てくれる日が来た。
良かった!
お祖父様も私達のお付き合いを認めてくれるみたい。
近いうちに婚約も見えてきた。
でもその後の話で、皆の
母方の伯父夫婦が父と母を殺害したという話だった。
それを偶々聞いてしまったお兄ちゃんが、私を必死にここへ逃そうとして無理をした挙げ句、亡くなる事になったと。
やっぱり私はどこまでもお兄ちゃんに守られていたんだ。
それに感謝すると同時に申し訳ない想いも湧いてくる。
以前伝え聞いたお兄ちゃんの死因は、司法解剖では衰弱死という事だったけど、胃の中は空っぽで実質的には餓死に近いという事だった。
一体どれだけつらかったのだろう。
どんなにお腹が空いていたことだろう。
それなのに私にだけは食事を与えてくれていたんだ。
改めてお兄ちゃんの愛を、想いを感じて、私は涙した。
お祖父様もお祖母様も凄くお怒りだったけど、特に現当主である一浩伯父が一番怒りをあらわにしていた。
大事な俺の弟を殺しやがって! と。
まずはグループ総動員で店を潰して資産も剥ぎ取り、その上で犯罪を暴き出すと息巻いていた。
その後、一条グループを敵に回した伯父の店は潰れ、私もどうしてもお兄ちゃんの苦しみを伝えたくて、婚約した晴臣さんと護衛を連れて、忌まわしいあの家に行った。
少しして犯罪の証拠も暴かれ、後に伯父夫婦は死刑判決を受ける事になった。
地獄にでも落ちて報いを受けるといいわ。
ーーーーー
色々な事が片づいて、私はふと晴臣さんの不思議な話を思い出した。
お兄ちゃんが亡くなった時、恐らくお兄ちゃんの願いで皆に幸せが訪れたと。
お兄ちゃんは私を幸せにしようと必死に頑張ってくれた。
では私の幸せとは何だろう。
私の幸せは……
もし、そうなら!
私は18歳になった直後に晴臣さんに無理を言って結婚してもらった。
「晴臣さん! 私、今直ぐに子供が欲しいんです!」
「ええっ! もう?」
……
そして妊娠がわかり、さらに数カ月後に私は元気な男の子を産む事が出来た。
ゆくゆくは一条家の当主になる男の子だ、両家の一族は皆が喜んでくれた。
私は深夜の病室で赤ちゃんを優しく抱き、頬を撫でながら語りかける。
「私は何が自分にとっての幸せかわかったの。
晴臣さんの事はもちろん夫として愛している。
でもあなたと過ごすのが私の一番の幸せなの。
あなたは絶対に私が守って幸せにするからね。
今度こそずっと一緒だよ。
おにいちゃん」
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