第30話 薄れゆく意識の中で……。


「……うう……。」



 まだ、意識が朦朧としている。私は何をしていたんだろう? 私はどこにいるんだろう?体を動かそうとしても動きが何かに制限されている。動かした時に手足に伝わる違和感と金属音。多分、手と足に枷をつけられてる。



「お目覚めのようね。自分の仲間が大変な目にあっているというのに、渦中の人物はのんびり夢の中。大したご身分だこと。」



 目の前には叔母様がいる。……思い出した。実家に帰ってきて、叔母様の手で囚われの身にされたんだ! 叔母様の発言からすると、みんなにも危険が及んでるのは間違いなさそう。私のせいでみんなを危険に巻き込んでしまった。



「わたくしがあなただけを隔離した理由がわかるかしら?」


「……え? それは……、」



 まだ、頭がぼんやりしている。記憶そのものが最初からなかったみたいな、違和感がある。ここに来る直前のことは思い出せても、昨日までの記憶が曖昧になってる感じ。やっぱり、叔母様になにかされたのかもしれない。



「あなたがここへ戻ってきた理由とも関係していますわ。わたくしの姉であり、あなたの母親であったあの女、エルフリーデが残した遺産、それがあなたの目的でしょう?」



 確かにそうだったのかもしれない。そのことですら記憶が曖昧になっている。そんな大切なことまで忘れてしまうだなんて。私はなんて情けないんだろう……。



「わたくしもそれを入手することが目的でしてよ。物自体がはわたくしが所有しています。理由はよくご存じでしょう?」



 遺産? 叔母様の認識はそうなのかもしれないけれど、私の見方は違う。私にとっては思い出の品。母の形見を奪われたという記憶が微かに残っている。叔母様から取り上げられた理由は何か秘密が隠されていたから? 当時は理由がわからなかったから、只々、悲しい思い出として私の中に残っている。その時の感情は思い出せても肝心の内容は曖昧になっている。



「あなたが持っていた、たわいの無い物が重要な秘密を内包していた事実に気付いたのは、大分後になってからですわ。あの女が厳重な封印を施した上で偽装、気付けなかったのも無理はありませんわ。」



 母があの品に何かを隠していた? 初めて知った。でも、何を隠していたのだろう? 叔母様が欲しがる物とは一体……?



「わたくしは幾度も封印の解除を試みましたが、最終段階の解除がどうしても出来ませんの。何か合い言葉が必要らしい事までは突き止めたのです。そこで……あなたが必要になったのですわ。正確にはあなたの記憶に用があるのですけれど。」



 私は何も知らない。封印自体にも気付かなかったぐらいなのに。知らないことを言えと言われてもどうにも出来ない。対処のしようがない。私はどうしたらいいの……?



「言え、と言ってもあなたは口を割らないでしょうね。まあ、それぐらいは想定済み。だからこそ、“蛇”の力を借り魂の牢獄を作り上げたんですの。あなたの記憶に眠る封印解除の方法を摘出するために。」



 魂の牢獄……。只の隔離空間だと思ってた。叔母様が空間を制御する魔術に長けているのには理由がある。母と叔母様は姉妹ではあるけれど、父親が違う。母のお父さんは病で亡くなったため、再婚したのだという。その再婚相手がモンブラン家出身で叔母様もその血を引いている。


 そのため叔母様はモンブラン家が得意としてる魔術を使うことが出来る。応用すれば対象の記憶から空間を作り出す事が出来ると聞いたことがある。でも、それを実現するには膨大な魔力が必要。足りない魔力を誰かから借りている? 叔母様の言う“蛇”とは何者なのだろう? 何か引っかかるけれど、頭に靄がかかったように考えることが出来ない。



「ある程度、記憶を引き出しましたけど、未だに発見できませんわ。もっと深く記憶を掘り下げる必要が出てきました。これ以上続ければ、あなたは最悪、廃人と化してしまうでしょうね。そうなりたくなければ、早いとこ白状なさい。」


「……知りません。私は何も……。」


「あらそうですの。なら仕方ありませんわ。では更に記憶を引き出すことにしますわね。」



 私は今理解した。記憶が所々曖昧になっているのは、叔母様が私の記憶を空間として展開しているせい……。これから更に引き出されてしまったら、自我を維持できるかどうかわからない。どうしよう……助けて、ロア……。

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