第29話 迫りくる影にはご用心


「ちょっとアンタ! いい加減にしなさいよ!協力しあえばいいじゃない! 目的は同じなんでしょ?」



 どうしてそんなに頑ななの? 協力し合えば生き残れる確率が上がるのに! 一人で出来るなんて思い上がりも甚だしいわ! 



「目的は同じでも、主義主張は違う。オレとお前らは相容れない。協力はしないが、利用はさせてもらう。敵対している相手は同じだからな。さっき勇者にもそれは宣言した。」


「利用する、か。利用するはずが、蛇とやらに利用されているのはお主の方じゃ。儂らはまんまと嵌められ、使い魔風情の相手をさせられた。その上で絶妙に儂らを敵対させ、敵を減らす。儂らの国では“漁夫の利”と呼ばれる策じゃな。」



 敵はゆーしゃやエルるんを孤立させて、ウチらやコイツ、自称婚約者を敵対させようとしてるって事? それに……さっきも言ってたけど蛇って何の事?



「別にいいさ。お前らもいずれは倒すつもりだからな。もういい。いつまでもお前らに関わっている訳にもいかないんだ。オレは蛇の魔王を倒しに行く。」



 生意気小僧はどこかに行こうとしている。逃がすもんか! 急いで近付いてその腕を掴む。



「何しやがる!」



 相手は強引にウチの手を引き剥がそうとする。離されまいとウチは両手で思い切り掴んだ。



「待ちなさいよ! 次はウチを殺すんじゃなかったっけ? 殺すとか言っといて殺してない! それに二回も!」


「あわわ、ミャーコちゃん刺激してはいけないヤンス! ホントに殺されるヤンスぅ!」


「クッ! お前なんかいつでも殺せる! 時間を無駄にしたくないだけだ!」



 いつでも殺せるって、殺す気ないんじゃないの? ホントに素直じゃない。ムカツクわ、コイツ! こうなったらトコトン邪魔してやる!



「参ったもんじゃのう。こうなれば、儂もちょいと強引な手を使わせてもらうぞい。」



 いつの間にかウチら二人の近くまでお爺ちゃんが近付いてきていた。一瞬のうちに生意気小僧の腹にパンチを入れた。すると見る見るうちに力が抜けていく。お爺ちゃんは一撃で気絶させてしまった。



「ある程度強い奴は面倒じゃのう。自分の強さに自信があるのは良い事じゃが、相手の力量を見極めておらぬと見える。魔王とやらはかなり手強い。例え儂から見たとしてもじゃ。」


「オジイチャンから見ても魔王は強いでヤンスか?」


「うむ。お主らを守り切れるかどうか、という意味ではあるがのう。」



 生意気小僧に魔王、そしてこのお爺ちゃん。あの屋敷にはいなかったのになんでここにいるんだろう? ホントにわからない事が多すぎる。



「お嬢ちゃん、この小僧はお主らをずっと尾行しておったようじゃぞ。だからこそ、過去に立ち寄った宿で出くわしたのではないか?」


「ちょっ!? ウチの心を読んだ?」


「ミャーコちゃん、このオジイチャン、人の心が読めるそうでヤンスよ。」


「ある程度わかるだけじゃ。全部わかるわけではないから安心せい。」



 お爺ちゃんは長いヒゲをさすりながら笑っている。いや、笑い事じゃないからね。しれっとウチらのプライバシーの侵害してるじゃん!



「お主、蛇の魔王の手先に会ったことがあるのでないか? 真っ先に隔離されたのもそれが理由じゃろうな。お主も標的になっとると考えた方が自然じゃ。」


「そんなはず……、」



 口では否定してるけど、どこか思い当たるようなことが前にあった。虎の魔王が攻めて来たときのエシャロットさん。あの人の目が蛇のような目になっていたことを思い出した。あれは魔王に操られていたから?



「お主の認識はそれで大方あっておる。今回はナドラとかいう婦人がその対象じゃ。人の心の隙に取り入る事に長けた魔王なのじゃろう。おそらくはこの小僧の身近にも魔王の手先がおるのかもしれんな。それ故おびき寄せられたと、儂は考えとる。」


「……。」



 魔王が身近に迫ってきていたなんて……。確かにウチは利用されて、お父さんを殺されたし、ウチの一族が守り続けてきた勇者王の剣も壊された。今度はエルるんが標的になってる。なんとかしないと……。



「うむ。そのためにも彼奴の企みを崩さねばならん。そのためにはお主らや、この小僧の力が必要不可欠じゃ。力を結集させるのじゃ。」


「その前に一つ聞いてもいい? お爺ちゃんって何者?」



 ずっと頭の中によぎっていた疑問をぶつけてみた。心が読めるはずなのに、話してくれないなら、こっちから聞いてみる。



「……儂か? お主らが良く知る仲間の知り合いじゃよ。」



 なんか誤魔化そうとしてる。そんな答え方されたら、どんな風にも解釈できるじゃない。ホント、年寄りってズルい……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る