第15話 ハイク・バショウ!!
「むむう、ムギキュウっ!」
タニシの声が聞こえる。と、同時に別の空間にやってきた俺は、仰向けにぶっ倒れて伸びているタニシを目にすることになった。俺はダメージらしいダメージは受けてない。能力の有無でこんなに差が出るのか。なんかタニシが不憫に思えてきた。
「情けない奴よのう。しっかりせんかい!」
いつの間にかやってきていたジジイはタニシの腹に手を当てて、気合いの声を上げた。タニシはビクッと痙攣した後、上半身だけムクッと起き上がった。
「ワハッ!? なんか大丈夫になったでヤンス!」
何をしたのか? まあいいや。それよりもここはどこなのか? 今度は古びた城の様なところへやってきたようだ。さっきほどじゃないが、妙な気配がする。だけど、今度は自分が良く知っている気配を感じる。
「さっきも言うたじゃろ? これはあの娘の記憶から作られとる。とはいえ、いつの記憶かはわからんがのう。ここに本人がおるならある程度判断は出来るじゃろう。」
前いた空間は多分、俺が初めて会った場所かもしれない。廃墟とアンデッド、あの感じはそのときと似ていたと思う。しかし、今度は見当が付かない。俺と会う前の記憶かな?
「……早く! 姉さんだけでもいいから逃げるんだ!」
誰かが別の誰かを急かす様な事を言っている。誰かいるのは間違いない。状況が全くわからない。敵かな? 味方かな? いや、味方なわけないか。エルが出てこない限りは。
「ダメ、あなたも一緒に!」
「オレが囮になる。その間に逃げろ!」
「ダメだよ! このまま残れば、あなたの命が……、」
さっきの声に続いて、女性の声が聞こえる。聴き覚えのある声。この声はエルだ。間違いない! 逃げる逃げないで揉めているということは、ここはドラゴンズ・ヘヴンかもしれない。彼女が逃げるときの記憶の可能性がある。
「行け! 行ってくれ! これ以上、オレを困らせないでくれ!」
「じゃあ、約束して! 必ず生きて、また会える事を……!」
「……ああ。約束する。必ず。」
「必ずね。絶対だよ!」
その声の後しばらくして、こちらに気配が近付いてくる! 急いでどこかに姿を隠す。なんか理由はわからんが、なんとなくそうしないといけないと思った。適当な場所に身を隠す。
「そうじゃ。それで良い。下手に干渉すると、本人の記憶に悪影響を与えかねんからのう。」
黄ジイは言う。人の記憶から作ってる空間だから記憶が塗り替えられてしまう可能性があるのか。過去に行って歴史を変えるのとは違って本人の記憶だけ変わってしまうだけだろうが、それはそれでマズい。ある意味洗脳とか催眠術みたいなことをしているのと同じだ。
「お願い死なないで……。」
悲痛な顔で目に涙をためながら、エルは走り去っていった。抱きしめてやりたいが、この時点での彼女は俺のことは知らない。この後、何日かして、俺と出会うことになる。今はそっとしておいたほうがいい。
「……被験者一号。あなたは何をしているのです?」
聞いたことのない声が聞こえてきた。女の声だ。ドラゴンズ・ヘヴンといえば、ヴァルの手下の女は例の邪竜ぐらいしか知らない。他にもいたのか? ありえない話じゃない。ヴァルの奴ならありとあらゆる手段で部下を集めているだろう。裏社会の組織とも繋がりがあるぐらいだしな。
「さあな。アンタには関係ないことだ。」
その声の主、エルを逃がした被験者一号と呼ばれた男がどんな姿をしているのか、そーっとのぞき見る。……若い。思っていたよりも5、6歳若かった。歳は15、6くらいかな? ミヤコと同じくらいかもしれない。
「関係ない? オプティマ様が悲しまれるでしょうね。あなたよりも貴重なサンプルでしたから。……四号は。」
そして女の方は女給さんの様な格好をしている。金持ちの屋敷にいそうな感じの。でも……まるっきり生気が感じられない。人形みたいだ。しかも悪霊が取り憑いた人形といった感じだ。不気味だ。見た目は美人だが、見ているだけで背筋が冷たくなってくる。
「姉さんにはこれ以上手出しはさせない! だから逃がした!」
やりとりから察するに、女は変態術士の部下であるらしい。そして、少年がエルの事を姉と呼んでいる事も気になる。弟がいたなんて聞いたことがない。とはいえ話せない事情があるのかもしれない。
「おかしいのう。」
「も?」
「何がでヤンスか?」
黄ジイが何か訝しんでいる。何かおかしいところなんてあったっけ? 俺とタニシは何が何やらわからなかった。
「おかしいんじゃよ。あの娘さんはこの場面を見ていないはずなんじゃ。何故、記憶の再生が続いておるのじゃ? 不可解だとは思わぬか?本人が知らぬ部分に到達した時点で終わるはずなんじゃよ。」
確かにおかしい。エルが知らない部分が見れるのは不自然だ。これは何を意味しているのか?
「ホホホ、四号、わかっていますね? オプティマ様に逆らえばどうなるかということを。」
人形女が不気味に笑い、その赤い目を輝かせ、どす黒いオーラを放ち始めた。そして、俺は見た。その目が蛇ような目をしていることを! 遠くから見ているのにやけに印象的だった……。
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