第13話 もんすと? もんはんどす?


「おう、なんじゃ? 狐がしゃべっとるじゃないか? 物の怪か?」


「キツネではないでヤンス! コボルトでヤンス!」


「何ぃ? こばるとじゃとう? 鉱石か何かじゃったのか、お主は?」


「コボルト! 石でもないヤンス! あっしらは犬の獣人でヤンス!」



 なつかしいやりとりだ。俺がタニシに会ったときと同じだ。普通に見たらキツネにしか見えない。まさか極東の希少種コボルトだなんて誰も思わないだろう。



「もんもろ!?」


「相変わらず、アニキが何言ってるかわからんヤンス!」


「なんじゃ? お主、しゃべられん呪いでもかけられおったんか?」



 いや、それは俺もわからんし! ゼアスだかゼウスみたいな名前だったと思う。知らんけど。俺たちがバカなやりとりをしている間に、アンデッドが周りを取り囲んでいた。しかし囲まれた、というヤツだ。



「しょうがないのう。物の怪が無限に沸いてきおるようじゃの。ここは……ちと一肌脱いでやるかのう!」



 黄ジイは両手の平を合わせて、目を閉じ集中を始めた。なにか大技が繰り出されるに違いない!



「ほうぁー!!!」


(プッスゥゥゥゥゥン!!!!)



 周囲に沈黙が流れた。……と同時に悪臭がただよい始めた。……おならじゃねえかぁ!?



「く、くちゃぁぁぁぁぁい!?」


「もんげーろ!」



 臭え。何食ったらこんな臭くなるんだ。俺でさえ臭いと感じるんだから、鼻のいいタニシには致死量の毒ガスなのではなかろうか。そんなことはどうでもいいが、攻撃と見せかけてオナラするとはどういうつもりだ。



「おお、すまん。つい別のモンが出ちまったわい。……覇気…放散!!!」



 黄ジイから突風の様な物が発せられた。周囲のアンデッドは為す術なく吹き飛ばされてしまった。しかも跡形もなく消え去ってしまった。最初はミスっていたが、凄い技だ。気合いだけで全部のアンデッドを消してしまった。



「ふぅー、久し振りに戦うと腰に来るわい。屁まで出てしもうた。歳は取りたくはないのぅ~。」


「もんげげ?」


「そういえば、オジイチャンどこからここへ入ってきたでヤンスか?」



 俺もそれを聞きたかった。ここへ転送される前はいなかったはずだ。いや、いたはずはない。潜んでいたとしても、範囲に入っていなけりゃ転送されない。ラヴァンは確かそんなことを言っていた。



「理由か? 簡単じゃよ。儂ゃ、異空間、異次元には自由に出入り出来るんじゃ。」


「も、もんげりあん?」


「自由にって、さらっととんでもないこと言ってるでヤンスぅ! オジイチャン、頭大丈夫でヤンスかぁ!」



 もうなんか、冗談なのか本気なのか……。このジジイの発言はイマイチ要領を得ない。



「やろうと思えば、過去、未来にまで到達できるぞ。それどころかほんの少しズレた世界にも行くことが出来るぞい。」


「過去? 未来? ズレ世界? ズラ世界? も、もうわけわかヤンスぅ! も、もんげりあんっ!!」



 俺とタニシは更に頭が混乱してしまった! なんか魔法で周囲を混乱と混沌の渦で幻惑するヤツがあると聞いたことがあるが、それみたいだ。知らんけど。サヨちゃんが“ペロポンテ”とか言ってた様な気がする? 俺たちを混乱させつつ、ジジイの妄言は続く。理解が追いつかない。しばらく合わない間にボケが進行したんだろうか?



「儂だけではないぞい。ここにもおるじゃろうが。もう一人。」


「もんすと?」


「はうへ?」



 最早人語を忘れた俺ら二人は更に混乱させられた。もう人間止めないといけないかもしれない。もんはんどす!



「お主じゃ。自覚しとらんかったんか?」



 黄ジイは俺を指差す。お、俺が? なにそれどういうこと? ますます話が異次元に飲み込まれていく。まさか、これが世界がズレるって事なんだろうか?

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