第4話 新タマネギはいかがですか?


「いつの間に師匠になったの?」



 エルがくすくすと笑いながら、俺をからかう。いやいや、知らんがな。俺かて初めて聞いたんだけど? こんなむさ苦しい、面白おかしいヤツのことは知らん!



「どういうことだ、タニシ? なにがあったか説明しろ!」


「これは深い理由があるでヤンス。ヤンス、ヤンスでヤンス。ヤンスヤンス! ヤンス~ぅ! ……と言うわけでヤンス!」


「何語だよそれ!? 意味が全然わかんないんだけど?」



 ヤンスばっかりだ。ヤンスの大洪水だ。



「そっか、そっか! なるほど! 前々から付いてきてたけど、声をかける切っ掛けがなかった? んで、ワンちゃんが一人きりになったのを機にコンタクトを決行! ワンちゃんに御馳走し恩を売り、勇者へのアポをとりつけたのだ! だってさ!」



 ドヤ顔でミヤコが説明する。さも当たり前のようにヤンス語を翻訳している。内容が本当なら今までの違和感、気配はコイツの仕業ということになる。タマネギ臭さもな。というか、メシを奢られたからって、安易に怪しい奴を連れてくるとは! 賄賂受け取ったり、買収されたようなモンじゃないか。



「だってさ、って何だよ! お前は通訳か! なんでわかったんだよ!」



 横ではエルがくすくす笑っている。多分、俺と同様、意味はわかってないと思われる。



「それは企業秘密です!」



 なにが企業秘密だ! さっきのヤンス語は暗号かなにかなのか? 開示しろ! 俺にわからないような秘密を持つなよ!



「お願いしヤス! 是非とも弟子にしてもらいたいッス! 強くなりたいッス!」


「言うて、俺のどこがいいの? 他に強い人いるよ?」



 エドとかファルとか、侍とか? 梁山泊という手もある。俺に弟子入りとか何を血迷ったのか。俺、人に教えたりしたことないんだけど。非常に困る。



「いえ! 一番強い人に弟子入りしたいッス! 世界一強くなりたいんスよ、俺っち!」


「ええ~? 世界一強いわけないから。大武会ちゃんと見てた? 優勝したとはいえ、決勝でフルボッコにされてたんだけど?」


「見てたッス! でも勝ったから問題ないッス!」



 お前も勝利至上主義か? もうそういうのはいいんで勘弁して頂きたい。疲れるから。様子を見ると、どうあっても引き下がるつもりはないらしい。鼻息が荒い。タマネギ臭い。



「うふふ、いいんじゃない? 弟子にしてあげても。宗家さんには分派って認めて貰っているんだから。」


「う~ん。」



 困ったな。エルにそんなこと言われたらなあ……。いきなり分派として活動せにゃならんのか。一生フリーでいるつもりだったのに。俺みたいなんが誰かの世話をしないといけなくなるなんてな。



「……じゃあ、しょうがない。認めてやろう。これより俺達は……流派梁山泊、極端派として活動する!」


「うふふ、やる気満々じゃない。」


「ノリノリじゃん! 前から考えてただろ、絶対!」



 今思いついた。考えてたわけじゃないんよ。パッと頭に浮かんだ。我ながらいいアイデアだと思う。俺自身の戦い方は極端に変則的なことに定評があるからだ。色んな人から言われる。



「そういえば、タニシ? お前、コイツのこと舎弟とか言ってたけどなんで?」


「そりゃ、あっしはアニキの弟子一号でヤンスから……、」


「断る。」


「ええ~、しょんな~!?」


「だが断る。」


「破門されたでヤンス……。」



 お前、戦闘力ほぼ皆無じゃないか。戦闘以外でがんばればいいだろ。この前も商売の勉強してたんだし。加えて、実家の稼業引き継ぐんだからな。



「あ、そういえば、お前の名前聞いてなかったな? 名前は?」


「ウス! 俺っちはゲイリー・ザ・オニオンって言うッス! よろしくお願いしやス!」



 名前もタマネギかよ! 名を名乗りゲイリーは深々とお辞儀する。頭の頭頂部がよく見えるくらいに。その時俺は奇妙な物を見た。……ヤツの頭頂部後ろ側に“108”という謎の数字が書かれていた。入れ墨だろうか? まるで戦技“一0八”計みたいじゃないか。これは偶然? 何だろう? 何か背中にゾワッとするものを感じた。

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