第8話 だから、少数では自殺的なんだ

「くぁ...」


新しい朝が来た、希望の朝だ。

乱れた髪をくしで梳かし、束ねる。

ローブを羽織り宿の扉を開けた。


「おはようございます。お代は既にモーセ様から頂いてますので」


会釈をし外に出る。朝日が目に刺さる。

18歳2日目、アリスはギルドへと向かった。


「すみません。クラン申請をしたいのですが」


「おはようございます。クラン申請ですね、書類をお持ちしますので少々お待ちください」


昨日とは違う老齢の受付が落ち着いた雰囲気で裏へ入って行った。

少し経って。


「お待たせ致しました。こちらに希望のクランと希望理由をお書きください。理由の方は大雑把で構いませんので」


立派に蓄えた口ひげがニコリと笑顔をふちどる。アリスは笑い返し羽根ペンを手に取る。


希望クラン:冒険者クラン

希望理由:全ての大精霊と会うため


もはや書きなれた異世界の字で空欄を埋める。


「これで、お願いします」


受付は書類を軽く読むと、ふむ、と一息つく。そのまま登録用の道具を取り出す。中央に浅めの窪みがついた板状の道具だ。


「では、こちらに身分証を」


案内に従いアリスはブローチを外し、置く。すると板状の道具は光の線を示した。受付は道具の端に指を置き呪文を唱えた。


「我が名においてこの者の冒険者クランへの所属を認める」


そう唱えると光は消えた。


「これで、アリス様は冒険者クランの一員です。全大精霊との邂逅かいこう、遥かなる夢ではありますが、いずれ叶うことを願っております。」


ありがとう、と一言。以上をもってアリスはこれより正真正銘冒険者となった。そうなればやることはひとつ、依頼を受けるのだ。

依頼板を見るアリス、そこに貼られた全ての依頼書には左上に番号が振られていた。アリスはその数字が意味する所を即座に理解した。おなじみ、ランク制度である。見たところ、どうやら1~10まで難易度が振られているようだった。

アリスは同じく依頼を探している人物に話しかける。


「あの、俺、今冒険者クランに登録してきたんですけど、どの依頼なら受けれますかね?」


見てくれでベテランの風格をはなつ男は快く説明をし始めた。


「なんだァ坊主、新人か。それなら難度3レベルスリーまでだなァ。新人てこたァランクが1☆ワンスターって事だ。スターが増えればそれだけ受けれる難度レベルが上がる。オレは4☆フォースターだから9ナインまで受けれる。スターの数は最大で5☆ファイブスター難度10レベルテン5☆ファイブスターだけが受けれる特別難度スペシャルレベルだ」


ほほう、と聴き入るアリス。そんなアリスを尻目に男は1枚の依頼書を取り、アリスに見せる。


「オレはこれを受ける。ついでだ、お前も同行しろ。」


そうして見せられた依頼書は難度5レベルファイブ、アリスの現在受注可能最大難度より2つも上の難度レベルだ。当然、アリスは尻込みする。しかし、ベテランの男は無理やり受注を済ませてしまった。


難度:5ファイブ

内容:荒禍狼アラスカの討伐

場所:北部密林地帯

報酬:金貨2枚


​───────北部密林地帯


ザクザクと雪を踏みしめる音。鈍色の曇天。凍てついた空気と張り詰めた緊張感。初の依頼にして自身の本来の許容値を超えた難度。全てがアリスにのしかかる。


「アラスカは群れを作って狩りを行う。単体の危険度はそこまで高くはねェが、カシラがまずい。魔物には珍しく頭が回る上、カシラ筆頭に完璧な統率が取れてやがるからな。少数での討伐は自殺行為に等しい。」


そこまで言い切って男は足を止める。ゆらりと鉄塊のごとき大剣を握った。アリスも感じ取っていた。

第1陣。アリスの感知範囲に6匹。


「まぁ、オレ以外の話だがな」


左右の草むらが揺れると同時に純白の狼が飛びかかる、合わせるように男が剣を振り抜く。一掃、赤が満遍なく広がる。雪が染まるより早く走り出した両名。急速に背後に迫るアラスカが、その命を刈り取らんと2人を追う。


「さァ2陣だァ!!坊主!!アレどうにか出来るな!!」


振り向く事無く指示を飛ばす男。おう!!、と応えるアリス。一瞬振り向き杖を地面に刺し込む。


堀根蛇アナコンダ!!」


アリスが呪文を唱えた位置で方陣が広がった。直ぐに向き直し再び男の背を追う。後方では先程の魔法にかかったアラスカが次々と串刺しになっていく。


「痕跡が増えてきやがった!!来るぞ!!カシラァ!!」


走り抜けた先は八方をアラスカに囲まれた領域。本陣。アリスの感知範囲に18匹と周囲に比べ強い魔力が1匹。周囲より一回り大きく、尾が黒い。悠然と立つその姿はカシラと言う名に恥じぬ威厳を放っていた。


「さァ本域ほんいきだぞ!!坊主!!」


千枝百足センティピード!!」


周囲の木々を操り枝々えだえだがアラスカに狙いを定めた。いざ狩らん、と急速に距離を詰めてきたアラスカたちを次々にいて行く。しかし、ほんの一瞬目を離した隙にカシラの姿を見失った。


『しまった、カシラは!?』


影が、アリスを覆った。魔力を消しアリスの背後に回っていたのだ。鋭い爪がアリスに斬りかかる、覚悟を決めた。が、瞬間にカシラの懐に入り込んだ男。大剣を構え、天を‎割ろうと切り上げる。


太陽の溜息プロミネンス


切り落とされた首。周囲の魔力反応は0。


「だから、少数では自殺的なんだ。オレ以外はな」


​​─────────Success​───────​─


「オレは報告をしてくる。坊主、皮剥かわはぎはできるな?」


「あぁ、やっておくよ」


アリスはまだ興奮していた。命をかけた討伐、自分が生きるためではなく誰かのための討伐。それはまるでゲームのようで、マンガのようで、アニメのようで、そんな世界に自分は今生きているのだ。そう、噛み締める。

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