第4話 ペルペテュイテ政王、ヤハウェ·アールヴ

身分証が出来るまでの間クラン表を見るアリス。画家クランや小説家クラン等様々なクランがあるが、やはり目を引くのは上位2つ。商人クラン、そして冒険者クラン。

元々ギルドは商人の集まり出会ったこともあり、やはり商人クランへの力の入れ方は違う。しかし、それに並ぶほどの勢力を持つ冒険者クラン。ギルドに登録し、冒険者クランに所属すると様々な依頼を受けることができ、依頼を解決することで対価を受け取ることが出来る。言わば便利屋的な存在だ。


「よし、決めた」


受付からアリスの名が呼ばれる。


「お待たせ致しました、こちらがアリス様の身分証になります。こちらを提示していただければご身分を証明することができ、ギルド同盟国の入国等がスムーズになります。」


そう言って渡されたのは、手のひらサイズのブローチだ。円形の羽型の飾り、その中央に翠の宝玉がはめ込まれている。中央の宝玉には術式が組み込まれており、読み取り用の魔道具にかざすと情報が出るのだと言う。


「ありがとうございます」


ブローチをウェストポーチにつけ、モーセに言われた通り2階へ上がった。

最奥の扉、支部長室と書かれた扉の前に立つ。アリスは職員室の扉を叩く時の緊張感を思い出していた。

コンコンコンコン、と4回。中からどうぞと声が聞こえる。アリスはゆっくりと扉を開け「失礼します」と言いながら入室した。


「来ましたね〜身分証は出来ましたか〜?」


「はい、このとおり」


身分証をモーセに見せる。モーセは「良いですね〜」と笑顔で答えた。


「それで、俺はなんでここに呼ばれたんですか?」


呼ばれた時から抱いていた疑問をモーセに問う。あからさまに自分に不釣り合いな場と人。ここにいる理由がアリスには分からなかった。


「それは〜主の導きですよ〜」


また分からないことが増えた。


「そもそも、主って誰ですか?」


モーセはうっかり、といった表情をした。


「あぁ〜そういえば知らないですよね〜主とは、ヤハウェ...」


「ペルペテュイテ政王、ヤハウェ·アールヴ様その人のことじゃよ」


モーセの言葉をさえぎり、ニコラウスが説明を始めた。


「ヤハウェ様はこの国ペルペテュイテを建国し、先々代軍王のミカエル様と共にこの国を大きくして行き、建国より2000年、今となってはここまでの大国となり、未だこの国の政治を全て行っている...正しく神のようなお方じゃ」


先程までの落ち着き様から一変、激しい熱量で話し始めるニコラウスにアリスは若干引いていた。が、思い出した。精霊の森で森じぃに教えてもらった世界のこと。政王と軍王。六大国にそれぞれ存在する二人の王。特にペルペテュイテでは信仰心が強く、その王が神として崇拝の対象となっている。正しく宗教国家なのだ、と。


「そうなんですね...それで、主の導きと言うのは...?」


アサが立ち上がる。


「それは私が説明しよう。この国の現状を」


​───────数時間前 王宮エルサレム


「...以上がウリエルの件の報告になります」


「うん。理解した」


雑音の一つも許されぬような空間で、二人の人物が会話している。ひざまづく女性が部下の報告をしていた。


「しかし珍しいですね。このような些事さじ本来ならわざわざお耳に入れるようなことではないかと」


「まぁ、少し気になることがあってね」


─腑に落ちない。全てに納得があるとは思っていないが今回のは異例だ。

女性はそんな考えを巡らせていた。

少しの間が空いて玉座から声がかかる。


「ミカエル、こちらに」


玉座に座る美しい人物。ペルペテュイテ政王、ヤハウェの姿。黒い髪は腰まで伸び、その細い目からは意図を汲み取ることは難しい。


「恐れ多い。わたくしなぞが御身に...」


一瞬動揺するが、女性はひざまづき動こうとしない。くまのある顔を隠すようにおもてを下げ、玉座裏の大窓から放たれる後光を一身に受ける翼は、キラキラと輝いていた。


い」


語尾に被せるように言い放つ。有無を言わさぬ圧にミカエルはしりごむ。


「しかし...」


「僕が呼んでいる」


なおもお動かぬミカエルに、ヤハウェはその権力を発揮した。


「...かしこまりました」


こうなっては逆らうことの出来ないミカエル。素直に立ち上がるり、玉座前のステップをのぼり再びひざまづく。


神聖魔法しんせいまほう・ラファエルの水筒」


ヤハウェの左手から白と金の粒子がミカエルに降り注ぐ。粒子はミカエルの身を包み、みるみるうちにくまは消え体調も回復していく。


「3日は寝ていないね」


先程に比べ遥かに穏やかな声で、ミカエルの頭を撫でながらヤハウェは言う。


「戦争の対応に追われていますゆえ」


バツが悪そうに答えるミカエル。


「無責任かもしれないが、体は資本だよ。大切にしなさい」


哀しみさえ混じる声にミカエルは唇を噛む。


「承知しています」


王に、神に心配をさせてしまった。自身の無力さに押しつぶされそうになる。


「魔法で誤魔化しは効くが、無理は良くない。無理が来たら休みなさい。君が倒れれば民も悲しむ。」


はい、としか答えることが出来なかった。ミカエルの声は弱く、その返事は司法使団しほうしだんの長でもなく、大天使長でもなく、軍王としてでもない。ただ一人のミカエルと言う女として答えた。心臓をつつみ脳を撫でるような暖かい声。この瞬間をミカエルは持ちうる全ての感覚器官で感受した。


「それでは、わたくしはこの後の会議の準備がありますので。失礼致します」


ヤハウェは、うん、とだけ返し、ミカエルは部屋を出た。小走りで廊下を進む。寝不足と苦悩による頭痛は晴れ、ミカエルに残ったのは、


「髪の毛拾ったぁ!!!」


髪の毛だった。


「額縁を買ってこなければ...!」


スキップで買い物に向かうミカエル。

最高級の額縁を買い、無地のキャンパスとガラス板にヤハウェの髪を挟み、部屋の1番目立つ所に飾った。そして、それから毎日その髪の毛を拝むのだった。


本題


​───ペルペテュイテ七使団長定例会議​───

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