第2話 七大天使が一人、断魔使ウリエル

アリスは開放された。出口まで案内するというケファについて歩き、沸き上がる質問を問う。


「あの、さっき俺に刺さった鍵はなんですか?」


「この鍵ですね?」


ケファは先程取り調べに使った金色の鍵を取りだし、見せながら説明を続けた。


「この鍵は名を〘 天国の鍵〙と言います。この鍵を対象の胸部に差し込み、回すと魂を露出させることが出来ます。魂にはその対象の全ての情報が保存されています。名前はもちろん、年齢、性別、探ろうと思えば好きな食べ物ですら分かります」


アリスは感嘆していた。魔道具の存在は知っていたがまさかここまでのものがあるとは。その表情を読み取ったケファは続ける。


「驚くのも無理はありません。この魔道具は我らの主が神聖魔法をお使いになって作られた、特別な魔道具なのです。しかし、私の方も驚きましたよ。あなたがまさか...」


何かを言いかけたところで止まった。その理由をアリスも察知し身構える。二人の魔力感知範囲内に高速で侵入し、なおも前進を続ける覚えのある魔力と知らない魔力。アリスは戦闘を辞さない覚悟だ。


「ほんっっっっっとうに申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!!」


二人して口を開け動けないでいた。高速で飛来する翼は全力のスライディング土下座をしながら二人の前で停止したのだ。黄金の鎧、金の長髪。眩しいほどに輝く女性が、目の前で土下座を続ける光景にアリスの脳はオーバーフローしていた。


「テメェはまだ療養中だつってんだろうが!!」


さらにその後ろからまた別の天使が飛んできた。


「ラファエル様!」


ケファがそう呼んだ男性は、白衣を着て眼鏡をかけたいかにも真面目という風貌だ。

土下座を続ける女性に追いついたラファエルと呼ばれる男性はこちらの存在に気づくなり状況を察知する。


「そうか、あなたがアリス殿ですか。お話は聞いてます。今回の不手際誠に申し訳ない」


ケファに続き、本日2度目となる深々とした謝罪。アリスはケファと同様に対応した。土下座を続けながら、念仏を唱えるように謝罪し続ける女性は一旦見ないことにして。


「大丈夫ですよ、きっとなにか事情があるんでしょうし」


「そう言って貰えるとありがたい。言い訳にもならないが、こいつが勘違いをしたようで。療養のため、遠方から戻ってきたのにも関わらず直ぐにそちらに向かってしまったのです」


ラファエルが言い終わった瞬間にガバッと顔を上げる女性。


わたくしは七大天使が一人、断魔使だんましウリエルと申します!わたくしに出来ることであればなんなりと申しつけください!」


あまりの勢いにアリスは圧倒されていた。


「私は七大天使が一人、息災使そくさいしラファエル。の言う通り、我々にできることなら如何様いかような願いも可能な限り叶えましょう。」


少し悩んでアリスは答えた。


「それなら、どなたかにこの国を案内して頂きたいのですが...」


その言葉を聞いた瞬間ウリエルは飛び起き、アリスの両手を包み顔を思い切り近づけた。


「その程度のことでよろしいのですか!?」


「え、えぇ。俺、他の国に来るのは初めてで、知らないことばかりですから。是非」


任せてください、と胸をどんと叩くウリエル。左腕の鎧に着いたたまの1つに触れて呪言を唱える。


「繋げ、魔法研究室」


3拍程の間を置いてたまから声が聞こえる。


[はい、こちら魔法研究室]


「モーセに通達を願いたい。至急マメルティヌス第3出入口へ、これは最優先事項だ、と」


[マメルティヌス第3出入口ですね、承知致しました]


「あぁ、よろしく頼む」


再びたまに触れ会話を終わらせたウリエル。


「今案内が出来る者を呼びました。ここからでたらそいつに国を見せてもらってください」


「ありがとうございます。それも魔道具ですか?」


アリスは先程ウリエルが触れたたまを指さして言った。


「えぇ、歩きながら説明しましょう」


騒動を終え4人で出口へ歩き始めた。


「これは〘遠伝えんでんたま〙と言って、魔力を込めて繋ぎたいところの名前を言うと、その相手と繋がって遠方からでも会話をすることが出来る魔道具です。これも我が軍事使団ぐんじしだんが開発したのですよ」


ウリエルは自慢げに説明した。


「ちなみに、アリス殿をここに転送した〘強制転移のたま〙も我が軍事使団ぐんじしだんが開発した物です」


ウリエルはまさに鼻高々と言ったふうだ。


「しかし、アリス殿は凄いですね。聞くにこいつとそこそこやりあったようで」


話を聞いていたラファエルが口を開く。


「いえ、やり合ったと言う程のものでもないですよ。かなり押されていましたし、あのままやっていたら負けていたのは確実に俺です」


アリスの謙遜にラファエルは少し驚く。


「ウリエルは、腐っても断魔使だんまし。こんな感じですが、その戦闘力は確かなものです。我が国だけで言うなら上から3番目くらいの実力者ですよ」


その言葉を聞いてアリスはバツが悪そうに照れた。首元を触る癖、いやぁ〜、と言いながら笑う表情。

また、同時に納得もしていた。アリスは実際のところ自分の運動神経にはかなり自信があった。18年森で暮らし続けた経験は伊達では無い。しかし、その自信を打ち砕く先の戦闘、自身の実力に若干の不信を覚えていた。それが、少し解消された気がした。


そんな雑談を重ねやっと光が見えた。


収監施設 マメルティヌス第3出入口到着。

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