第24話

「サビアの狙いはシュトルツ族だけでなく、隣国エゲリアにあるようです」

 サンスクリットは賢者の間に置かれている机の上に羊皮紙で作られた大陸地図を広げる。

 大陸の左半分のほとんどを占めているのが砂の国とも呼ばれるサビア。サビアの右下隣に位置し、国境に山脈が広がる国がスフェール。その隣にシュトルヴァ領が位置している。

 エゲリアはシュトルヴァ領の隣で、スフェールから見るとシュトルヴァ領を挟んだ隣の国がエゲリアだ。

 別名『科学の国』とも呼ばれ、国内で優秀な科学者達が女帝の庇護のもと多種多様な研究を行っているという。

 大陸で最も近代化が進んでいる国とも言われている。


「サビアは自国に匹敵するとも言えるエゲリアを攻略する前に、ほぼ無傷でスフェールとシュトルヴァ領を手に入れたいようなのです」

「サビアとスフェールが敵に回ったと知れば、さすがのシュトルツ族でも数には勝てないと考え、戦う前に折れると思ったのだろう」

 サンスクリットはブレイブの言葉に頷いた。

「俺が戦嫌いだっていうこともサビア王は知っているんだろうな」

「えぇ。国ごとの長の性格を踏まえた交渉をしているので、サビアは情報をかなり集めているのでしょう。シュトルヴァ領を攻める為に割かれるサビア軍はおそらく2万と言われています」

 サーラは愕然とした。

 さすがのシュトルツ族でも、一族だけでは太刀打ち出来ない数だ。シュトルツ族は獣と人の両方の素質を受け継ぐ種族であり、外界の人間より身体能力が遥かに優れている。戦いの場に置いても身体能力の高さを活かし、一騎当千とも呼ばれているほどだ。

 だが、一騎当千と言われていても本当に1人のシュトルツ族の兵が1,000人を斬っていくわけではない。シュトルツ族も戦い続けていれば疲弊してくる。サビアは数で勝負を仕掛けていた。シュトルツ族が疲弊し、動きが鈍くなったところを仕留める。

 サビア王の考えにサーラは恐ろしさを感じた。


 数で勝負をするということは、命を使い捨てられる兵士達がいるということだ。兵を替えのきく駒だとサビア王は思っているのだろう。

 シュトルヴァ領を攻めるだけで2万の兵となると、シュトルツ族から見れば大軍だが、サビア軍全体のほんの一部に過ぎない。今後、状況によっては増える可能性があることも考慮しなければならないだろう。


「シュトルツ族で戦いに出られる人数はどのくらいですか?」

 サンスクリットの質問にブレイブは少し考えてから答えた。

「単純な数だけでいくと100程。だが、兵士として動けるのはそのうち30程だろう」

 圧倒的に数で不利だった。優秀な兵だったとしても少人数で2万の軍を相手には出来ない。


「このままではシュトルヴァ領が奪われる……」

 ぽつりと呟かれたブレイブの言葉に返事をする者は居なかった。

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