第4話
1週間後に結婚式を控えた今日。
サーラは必要最低限の荷物を馬車1両に詰め、母が残してくれたほんの少しのお金を持参金として懐に入れていた。
いよいよシュトルヴァ領へ出発する日だ。護衛としてサンスクリットのみが同行する事になり、シュトルヴァ領までは2人だけの旅となった。
スフェールからシュトルヴァ領までは、馬車で1週間かかる。舗装された道路は王都ルチルを離れていく程、険しくなっていった。
道が険しくなった最初の頃は馬車で左右に揺らされ、気持ち悪くなったものだが、もう慣れたものだ。
「到着いたしました」
サンスクリットの言葉通り、馬車がピタリと停まる。小鳥の囀りがあちらこちらから聞こえてきた。
シュトルヴァ領は豊かな緑が生い茂っている土地だった。空気は澄んでいて、様々な動物達が姿を見せる。どこからか水の音が聞こえてきて、落ち着く空間だった。
「お出迎えしていただいているようですよ」
サンスクリットに言われ、数人が目の前に居たことに気付く。
真ん中に立つ、雪のように真っ白な髪から覗く獅子の耳を左右に動かしている青年をはじめ、みな体の一部に獣の部分を持ち合わせている。シュトルツ族だ。
「初めまして、スフェールからやって参りましたサーラ・ディアマンティと申します。隣に居るのは近衛騎士のサンスクリットでございます」
サーラがスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げて一礼をすると、シュトルツ族は顔を強張らせる。
白い髪の青年だけが表情を変えることなく、じっとサーラを見つめていた。
言葉が通じていないのかと思ったが、スフェール語ではなく大陸共通語で話した為、大陸共通語を話せるシュトルツ族なら分かるはずだ。
それなのにこの反応ということは、どうやらサーラ達は歓迎されていないらしい。
「俺はブレイブだ。シュトルツ族の長をしている」
沈黙を打ち破るように白い髪の青年が前に出てきた。吸い込まれそうなくらい透き通った青い瞳。サーラは思わずまじまじと見つめてしまった。
(わたしの夫になる人……)
彼は、サーラの視線を特に気にする様子もない。
「お姫さんがこれから暮らす族長の館に案内する」
ブレイブは淡々と告げると、くるりと背を向けて歩いて行く。他のシュトルツ族も彼についていくように背を向けた。
サーラとサンスクリットは慌ててブレイブ達についていく。
深い森を歩くこと数十分。滝が見えてきた。先程の水の音は滝の流れる音だったらしい。
川に浮かぶように幾つもの丸い家のような建物が橋で繋がっている。どうやらシュトルツ族の住む家は、小さい家を幾つも繋げて1つの家になっているようだ。
「族長の館がこれだ。お姫さんが住むのは真ん中の大きい離れになる。他の離れには好きなように出入りしてもらっていいが、森の離れだけには絶対近付くな」
ブレイブはそう言うと、森の近くに位置する1つの離れを指差した。何故そこだけに行ってはいけないのか、少し気になったがここで根掘り葉掘り聞いてもより歓迎されないだけだ。サーラは黙って頷く。
「結婚式は明日だ。気が休まらないだろうが、ゆっくりすると良い。お姫さんの世話役として彼女を付ける」
紹介されたのは1人の女性だった。
濃い青色の長い髪から目玉模様のような孔雀の飾り羽が生えている。どうやら孔雀の獣人らしい。
「アニーサと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
アニーサと名乗る彼女は幼さを残した顔に満面の笑みを浮かべる。彼女はサーラに好意的なようだ。
全てのシュトルツ族がサーラを歓迎していないわけではない事が分かって、ほっと胸を撫で下ろす。
(彼はわたしをどう思っているのかしら……)
仏頂面のブレイブに視線をやると、目が合ってしまい、慌てて視線を逸らした。
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