第二十話

 その後。


 仮説を証明するにはまず女神と接触する必要があるため、レイは最寄の神殿を目指していた。


 ところが神殿へ向かう道中に、魔王軍の幹部である『ヴィルフレア』という暗黒騎士と遭遇してしまう。


「お前から唯ならぬ気配を感じる。厄介事になる前にここで死んでもらおうか」


 と、レイは否応なしに襲いかかってきたヴィルフレア相手に、かなりの苦戦を強いられた――しかし。


「クソ……無念……だ……――」


 下手をすれば差し違えていたところ、間一髪でヴィルフレアを打ち倒したレイは、戦利品として凄まじく頑丈な『漆黒の鎧』を手に入れることとなる――。


 レイが無事に神殿へ到着すると、中から純白のドレスを身に纏う天使のような女神が姿を現した。


「初めまして、女神のリネットと申します」

「レイだ」


 自己紹介も早々に切り上げたレイが、本題の魔王討伐について彼女から話を訊いてみると。


「各国で私以外の女神達も転生者を召喚はしているのですが、残念ながらなかなか魔王討伐には至っておりません……」


 リネットも転生者をこの世界に解き放っており、その転生者は前世の名である『ヨシヒサ』を名乗って旅をしている。しかし、性格に難があって制御が利かないと苦言を嘆いていた。


「そんなのは放っておいて構わん。それより、今から私が話すことを良く聞いてくれ」


「……あ、はい」


 自ら立てた仮説を伝えたレイはリネットに協力してもらい、彼女が探し当てた物質転移能力を保有する転生者である『カズオ』という男を神殿に呼んでもらった。見ると短めの茶髪で何とも爽やかな青年である。


「い、異世界物質転移!?」

「そうだ。これを実現して魔王を討伐するためには、君の力が必須となる」

「魔王討伐か(超ダリィな)……わ、わかった! 精一杯協力させてもらうよ!(わぁお! 俺って天邪鬼!?) ――」


 そして『開門』と『転移』、二つの能力を融合させる魔法陣を用いた実験を試みてみる。まず確かめたいのは“異世界から物体を召喚出来るかどうか”である。


「ん~、これ何だろ?」

「あまり見慣れない花ですね……」

「え、花なん?」

「絶対花ですよー!」

「花かぁ……いや、やっぱこれ花じゃ――」


 最初は小石や葉っぱなど“絶対に異世界から来た”とは到底判別し難い物ばかりが召喚されていた――。


 そんな時。


 神殿の別室で漆黒の鎧を分析していたレイに、リネットが声をかけてきた。


「そういえば、レイ様が着てらっしゃるその鎧……もしかしてヴィルフレアのものではないですか?」


「知っていたのか?」


「魔王軍の中でも、とてつもなく凶悪かつ残虐で有名な幹部でしたからね……まさか、貴方様が倒されておられたとは、驚きです」


 そこへレイが「これを着ていると、人々から魔王軍の幹部だと勘違いされてしまう。持ち歩くのも不便だ」という悩みを相談してみる。するとリネットは。


に戦闘時以外の場面では収納しておく……というのはいかがでしょうか? 一つだけしかございませんが、必ずお役に立てるはずです」


 と、レイはリネットから『魔法のブレスレット』を差し出され、敵に奪われないよう左手首へ巻きつけて貰った。


「収納にはブレスレットに蓄えられた魔力を消耗してしまいますが、私が残量を見ながら補充致します」


「助かる。それと出来たらで構わんのだが、鎧に魔物を惹きつける『誘き寄せ』の魔法を付与することは可能か?」


「あーめっちゃ余裕で出来ます……一応、女神ですから――」


 その後も実験は続いて何度か失敗を重ねていくうちに、突如――カズオ曰く『炊飯器』と呼ばれる物体が出現した。


「うぉぉーすげぇ!! ジャーやんけ!!」

「ホントにすごいです!!」

「これ成功ってことっしょ!?」

「はいッ! ――」


 リネットとカズオが手を取り合って飛び跳ねる横では、レイが「仮説は正しかったようだな」と静かに呟いていた。


 こうして、明らかに現在の科学技術では生産不可能な物体の召喚に成功し、三人は希望を見出したのである。


 その間にもレイは漆黒の鎧を解析し終え、宇宙から飛来した隕石に含まれる“黒絃石”と呼ばれる素材を使用し、ほぼ同等の強度を持つレプリカの作製に成功していた。


 すると、神妙な顔をしたカズオが首を傾げる。


「ん~……でも、ぶっちゃけ炊飯器なんかいらなくね? この世界に電源とかないし」

「え、これ使えないんですか?」


 異世界物質転移の致命的な問題は“召喚される物体がランダム”であること。これでは完全に何が出るか召喚してからのお楽しみ状態だ。


 こんな宝クジにも等しい不確定さでは、異世界から狙ったものを召喚するのは不可能に近い。

 カズオも感覚的に「見えない袋に手を突っ込んで引っ張ってる感じ」だと、何とも言えない微妙な表情をしていた。


「私も、ただこの世界と異世界を繋ぐだけですからね……」


 女神は異世界の魂に狙いを定めるのは得意だが、今回においては物質転移なのでそれはまた別の話である。


 そこへ顎に手を添えていたレイが、しばらく悩んだ末に口を開く。


「ならば、異世界側からこちらに“転送”するというのはどうだ?」


「……なるほど、確かにその方が確実だわ(実家帰れるやん)!」

「え、私達が異世界に行くということですか?」


「そうする他あるまい」


 カズオは人体も転移が可能なため、理屈で言えば異世界に飛ぶことも出来るということ。早速三人は支度を整え、異世界に向けて飛び立とうとした。


「マ、マジで行くよ?」

「はい。私は心の準備万端です」

「ほ、本当に行っちゃうよ!? いいの!?」

「ヤダ……まさかビビってるんですか?」

「こ、このカズオ様がビビるとかないから!」


「……いいから早くしろ――」


 こうして三人は手を繋ぎ、異世界に向けて自分達を転移させた――。

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