第十七話

 空を覆っていた雲の狭間から光が差し込み、魔物の塵が照らされて粉雪のように煌めく中――仮面騎士が悠然と立ち尽くしている。



 幻でも見ていたのだろうか。



 衝撃的な光景を前に、ゴンゾウの開いた口が塞がらない。

 ただ愕然としていたら、いつの間にか迷彩服に戻っていたレイが微笑みながら、そっと手を肩に乗せてきた。


「よく今までクルタを守ってくれたな。ゴンゾウ」


「……あ……ああ」


 そこへ、レイと同じような迷彩服を着た兵士が走り寄ってくる。


「報告致します。街内にいた未確認生命体残党の殲滅を完了致しました。また、の安全も確認済みです」


 その言葉にゴンゾウが「お、おやっさんは!?」と尋ねると、兵士は「装備屋の方ですね? 彼は『体外式除細動器』で電気ショックを与えたら、息を吹き返しましたよ」と不可思議な言葉を返してきた。

 理屈は分からなくとも、おやっさんや皆が無事だったことに、ひとまずゴンゾウが安堵に胸を撫で下ろす。


「分かった。だがこれから先何が起こるか予測できない状況だ。小隊各自残弾確認、弾倉も取っておけ。引き続き警戒態勢を怠るな」


 淡々とするレイの指示に兵士が敬礼しながら「了解」と言い残し、街へと戻って行く。


 もう何がなんだかワケの分からない状況ではあるにしろ、とりあえず街の危機が去ったのは確かなようだ。

 すると、憂色を晴らすようにレイが溜息を吐いた。


「港に着いて間もなく、この街で戦闘行為が勃発していたことに索敵兵が気付いたのだ。とにかく間に合って良かった」


「レ、レイ……一体何が起こってるのか説明してくれ」


「そうしたいところだが生憎時間がない。ゴンゾウ、これから私と共に同行してくれないか?」


「は、どこへ!?」


「まだ“本当の闘い”は終わってない。安心してる暇などないぞ――」


 そうしてゴンゾウは急ぐレイとリネットの三人で、『軍用車両』というモスグリーン色の如何にも頑丈そうな四輪駆動の乗り物に乗って移動を開始した。


 リネットが運転する後方座席で、ゴンゾウが対面に座るレイに向かって「聞きてぇことは山ほどあっけど、エレナと会わなくていいのか? 幼馴染なんだろ?」と尋ねてみる。


「いや、私には“やらなければならないこと”がある。お前も色々混乱していると思うが、細かい話は港についてから落ち着いて話そう」


 腕を組んで目を瞑るレイに対し、ゴンゾウは頷きながら「……わかった」とだけ返し、窓の外を猛スピードで過ぎ去る風景を見遣った。


 それにしても、何だこのやたら速い乗り物は……馬はどこに隠れてんだ?


 爆発的な推進力を疑問に思いながらも、ゴンゾウは車の揺れに身を任せて目的地の港へと向かった――。


 果てしない地平線が続く青い海。


 車から降車したゴンゾウが辺りを見渡してみる――が、その目の前には見たこともない“異様な形をする巨大な鉄の塊”が、海面にどっしりと浮いているではないか。


「な……なんじゃぁぁこりゃあ!?」


 余りに驚愕したゴンゾウが顔を歪めて見上げていると、レイがその隣に並んでそっと口を開いた。


「私がクルタを不在にしていたのは、を呼び寄せるためだったんだ。ついてこい」


「……お、おう――」


 レイは戸惑うゴンゾウをその“得体の知れない物体”内部まで案内しながら、ここに至るまでの経緯を説明し始めた――。

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