第十一話

 治療を終えたゴンゾウが診療所から出ると突然――“カンカンカン”という物見櫓の鐘が鳴り出す。


「な……クソ、こんな時に!」


 手当てこそしたが、剣を握る大事な手を痛めたまま、ゴンゾウは仮面騎士にならなければならくなってしまった。


 でもオークやゴブリンくらいなら、そこまで支障ないか。


 と、包帯が巻かれた右手を握りしめ、ゴンゾウは鎧が置いてある街の外まで走って行った――。


 仮面騎士に扮装したゴンゾウが街に登場するや否や、いつもと違う雰囲気に目を奪われる。


「うわぁぁぁ!」

「やめてぇぇえ!」

「助けてくれぇ!」


 やたらと聞こえてくる沢山の悲鳴。


 疑問に思ったゴンゾウが屋根に登ると、普段とは桁違いな群勢のオーク達が攻め込んできていた。


 な……何!?


 こんなことは未だかつてない、未曾有の危機的状況である。


 さらにオーク達は凶暴化しているのか、腕力や俊敏さが上がっているように見える。そして、持っている武器も石斧だけではなく“捕獲用ネット”だった。


「あんなもん持って……まさか、俺達を捕獲するつもりなのか!?」


 仮面騎士の登場に歓喜する暇もなく民達が逃げ惑っていると、オーク達は女達を中心に捕まえている様子が見てとれた。


 その中には、何とエレナもいるではないか。


「エレナ!!」


 すかさず屋根から飛び降りたゴンゾウが、剣を握る手の痛みに耐えながらオーク達を斬っていく。とにかく目に入った女達を捕縛するネットから解放し、何とかエレナの救出も成功した。


「エレナ、無事か!?」


「そ、その声……もしかして、ゴンゾウさん?」


 あ、しまった。また勢い余って仮面騎士の格好で普通に声をかけちまった。


「は、はて……一体誰のことでやんすか?」


「ゴンゾウさん後ろ!!」


「むッ!?」


 背後に迫るオークを「邪魔すんなッ!」と素早く切り捌いたゴンゾウは、エレナに向けて「早くこの街から逃げろ! メイン通りのオーク達は俺が倒したから、そこを抜けて行け!」とだけ伝え、さらに近くの護衛兵に声をかけた。


「おい、他の護衛兵達はどうした!?」


「え、あ、み、みんな中央広場の防衛に向かってます!」


 唐突に仮面騎士から声をかけられて困惑する護衛兵。しかし、この状況下ではいい加減ゴンゾウも指示を出さねば、取り返しのつかない事態を招く。


「お前は本部に戻って今の状況を伝達してこい! それと、各隣村に応援要求の早馬を出して避難用の馬車をありったけ用意するんだ!! 今回の敵は何やら様子がおかしい、急げ!!」


「は、はい!! ――」


 側で心配そうに見つめていたエレナの「ゴンゾウさん!!」という呼び止めにも、仮面騎士は振り返ることなく広場へ走り出した――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る