08 恭◇お空とあの娘

〝ねえねえ〟


〝この子は、だあれ?〟


〝うーん。起きないね…〟


あら…?

声がする。

女の子の声みたい…。

それもひとりじゃなくて何人か居るの…?



私は、ゆっくりと目を開けた。

その目に飛び込んで来たのは、いつも見ている…お空?

お空の、あの雲が、ふわふわと浮いている…。


……?


あまりにも、おかしな景色で、何が何だかよく解らなくなってしまった。

でも。お空?


「ここは…〝お空〟なの?」


〝そうよ〟


隣から可愛らしい声が答えた。私は、びっくりして声がした方を向く。

そこには、ふんわりとしたワンピースを着た、三つ編みの少女が、にっこりとしていた。更に、その横には、胸にリボンの付いたブラウスを着た、ブロンドの長い髪の少女も居る。


「貴女達は誰? ここはお空って、どういう事…?」

私は慌てて訊いた。

すると少女達は、くすくすと笑った。


そして。


「ここはね」長髪の少女が言う。

「大きな木の上なの」三つ編みの少女が言う。


……大きな木?


「それって…」

私は、ほぼ確信を持って訊く。

「ルナの大木たいぼくの事?」


〝そうよ〟


後ろから聞こえた。

振り返ると、そこには見覚えのある顔立ちの少女が立っていました。


「あ…」


……そう。

〝この〟は、去年の御祈りの日に行方不明となったでした。





この達の話によると、やはり〝ここ〟は、ルナ唯一の大木たいぼくの真上に位置する空みたい。


そして〝彼女達〟は…


〝お狐さまに選ばれた娘達〟だと。


それを聞いた私は、お祖父様じいさまとお祖母様ばあさまが話していた事を思い出していた。


『貴方! 九番地の所のお嬢さんが行方不明らしい、って…!』

『そんな! まさか、また…! ここ十年間で、もう七回目じゃないか!』

『ああ…きっと、また〝お狐さま〟の仕業なんだわ…』

そう。あれは去年の、お祈りの日でした。

その日もやっぱり、今日みたいなお天気…だったかしら。


行方不明となった彼女を捜す為、街中にそのの顔写真付きのポスターが貼られたり、大人達が総出で何日も捜したりしていたのを覚えている。

それに、私とお兄様も、大人達から「この娘を知っている?」って何度も訊かれたもの。


そして。

〝その〟は結局、一年経っても見付かっていなかった…。



でも! でも今、私の目の前に、その娘が居る…!


あの時、お祖父様達が言っていたわ。

『また〝お狐さま〟の仕業だ』って。


御祈りの日に連れて行かれちゃうと、その娘には…

もう絶対に会えなくなってしまう、と。



その時、私はふとひらめいたの。


……ああ。私も〝選ばれた〟んだわ。


頬の上を涙が伝っていった。



「……ごめんなさい。お兄様、お祖父様、お祖母様」

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