試し読み
ゃ〜
第1話
「お前、兄さん探してこい」
そう父親に言われたのは波の穏やかな夏の日の夜だった
𓆝
ジルベールは顔の美しい白髪の人魚であった。
ジルベールに母はいない。正しく言えば居なくなった。
この海域一美しい娼婦の母はジルベールが物心着く頃に去った。父親のDVを受けて。
_______
「__今、なんつった、お前」
「あたし育てないっつったのよ、ガキなんて嫌いよ」
「ふざけるなお前が育てなければ誰が育てるんだ」
「あんたが育てなさいよ……元々避妊もしない貴方が悪いんでしょう?2人も生まれるなんて聞いてないわ、私は子供が欲しいわけじゃなかったのに!!」
________
激昂した父親が美しい母の尾鰭を噛みちぎった。そして母は出ていった。こんな感じなので母はいない。
血の尾を引きながら父から、家から逃げていく母親が、まだ幼い稚魚だったジルベールの目に映った最後の"母親"だった。
またジルベールには容姿も声も似たジェラールという兄がいて、彼も顔は美しく黒髪であった。
唯一ジルベールと違うのは少しだけ目がつり上がっている所と真面目なところだけである。
父親はその辺のただ普通の人魚で家に潜っては飯となる魚をとり、海藻のワインを飲み、兄の給料をほとんどぶんどった後ジルベールを殴って床に就く、そんな普通の父親だった。
ジルベールはそんな家庭で育ったのでまともに学校す通えず、いつもイルカたちの捨てたおこぼれのフグ毒で遊んだ。
治安の悪い海域のイルカたちが落としていくのでフグ毒はわるいものだとうっすら理解はしていたがその"わるいもの"は最高だった。
海が、水が、うねって見えて、自分の周りの魚たちが踊って音楽を奏でている、珊瑚はカラフルに生い茂り、潮騒のビートでダンスを踊った。ぼくは海の王で、ぼくは海の王で、いまとてもしあわせ。せかいでいちばんしあわせ____
………もっとすごい多幸感に包まれたいと一度有り金全てを溶かしてクラゲを刺したがクラゲの毒は強すぎて本気で死にかけて兄にこっぴどく叱られたのでそれ以来クラゲは刺していない。フグ毒でトリップする。
しかし兄の給料では食費どころかフグ毒すら買えない。
稼ぎが悪いと分かりやすく父の機嫌は悪くなり、いつもジルベールが血反吐を吐くまで殴り続ける。ジルベールと違って兄ジェラールは稼ぐ能力があったためいつも殴られる役はジルベールのみだった。
なので仕方なく深海へ体を売りに行く。
ジルベールは身なりは酷いが顔だけはいい男なのでまるでチョウチンアンコウの光に引き寄せられる魚のように女達は群がるのである。
好きでもない女を抱くのは気分が悪いが、マトモに教育も受けていないので金を稼ぐためならいいよお、お前ら全員抱いてやるよ、次の日泳げなくなるまで抱いてやるからな、の気持ちだった。
体を売る、トリップする、家に帰って父に殴られその度に兄に
「ごめん、おれがもっと稼がないといけないのに」
と謝罪され、しかし謝罪された所で状況は変わらないのでまた体を売りに行く、そんな日々を送っていた
𓆝
早朝、ジルベールは暇していた。
夜でないので深海には行っても金にならないものしかいないし、フグ毒もおとつい使い切ってしまった。学費も払えないので学校にも行けず、ほんとうに何も無かった。巣の周りをすいと泳いでも面白いものもないのでただずうっと海底の岩に座り朝焼けに薄く光り揺れ動く水面を焦点の合わない目でボケーッと見つめていた。
ジルベールは人の不幸で生きている。
父がジルベールを叩いて笑うように、彼も人が困っているのを、堕落するのを、ただ年端もいかない子供のようにきゃらきゃらと笑っちゃうのだ。
「はあ、はあ、ぁ、」
「ネ、そこの黒いの。何そんなに焦っちゃって」
「は、ほっといてくれませんか、はあ、学校に、はあ、遅れちゃうんです、わたしは寝坊したから、」
「エ、なに学校行くの?ダメぼくンとこ居て」
「ぁだめ、ちょっと離して………!」
____だからこの人魚も彼の獲物なのだ。
𓆝
名をロジェという人魚はジルベールにとって唯一と言える共になった。
彼の両親は薬師をやっていて、とっても頭がよいらしい。のでコイツは金もってんだろう、どうにか上手く金だけ引き出せないかとジルベールは思ったがかしこいロジェはきっぱりと
「君、何が目当てかなんてわたしは分かっているよ。学校に行かない君は、わたしの知識が欲しいんだろう。」
なんて訳の分からないボンボンの謎解釈で言い放ち、放課後暇な時はジルベールに学校の様子や勉強を教えた(といってもジルベールはマトモに字も書けないので教える内容はほとんど読み書きだったが)。
ジルベールも勉強を教えてもらうのは悪くはない気分だった。字を書けることは生活上最低限の教養である。夜にお金を払ってくれるオネエサン方は教養の無いよりある人魚の方を好むので読み書きの能力は深海での身売りに役立つし、なにより字をかけるという事がジルベールにとっては画期的で、新しく、他の同年代の人魚は皆もう字が書けるのが普通であるのにジルベールはまるで字が書けるようになった、それだけで自分がおエラいさんになったかのように感じたのだった。
事実、ある程度読み書きできるようになった頃、その日自分を"買って"くれた女は
「マ、ジルってばいつの間に字なんて書けるようになったの。どうせ他の女に教えて貰ったんでしょう?この人でなし。私の事なんてどうせ遊びとしか思っていないくせに……!」
なんて言ってクシクシ泣きながら通常の倍の額を渡してきた。
…その後その女は二度とジルベールを買うことは無かった。
ジルベールは歩くガチ恋製造機の害悪人魚であった。
𓆝
そんな日々が突如終わったのはジルベールが18の時だった
___ジェラールが貴族の娘に一目惚れされたのだ!
相手はいいとこの娘さんで!その上兄に婚約を申し込んだ!
人魚の一目惚れなんて海ではなんら珍しいものではないが相手は貴族の娘である。そこらの教養のない一夜限りの女とはワケが違うのだ。
そんな急な話があってたまるかとジルベールは思ったが、兄ジェラールは
「おれはただ泥棒に盗まれた彼女の美しい真珠を奪い返しただけなのに、彼女、ジェラールさん好きです、なんて言っちゃって、ははは」
なんて満更でもなさそうにはははと笑うものだからジルベールは訳が分からず一時停止した。そうか、兄は、こいつはいいとこの娘さんとケッコンすんのかあ。ケッコンってなんだろう?
ジルベールは結婚を知らない。家庭環境がぶち壊れているので。ただケッコンする相手によって幸せの度合いというものは氷河の海から暖かい海くらい大きな差が生まれるということだけは頭の悪いジルベールにも理解できた。
いいとこの娘さんと結ばれたら幸せになるのか、なら兄でなく自分がケッコンできたら良かったのにな。
もちろん兄には恩はある、が、幸せになるなら自分がいい。
ジルベールは他人の幸せに興味が無い。
ジェラールと娘さんの婚約が(ほぼ)成立したその日から、父親の機嫌は急激に良くなった。一生使い果たせないような婚約金が手に入る予定だから。
その日から残りの少ない貯金をドバドバと使うようになった父は都合の良いおてがるサンドバッグだったジルベールに初めてお高い"よそいき"のいい服を買ってくれた。
「お前、貴族の息子になンだから、身なりくらいしっかりしろよ、なあ、はは」
____ジルベールにとって、それは初めてのプレゼントだった。
それなのに。
𓆝
急に兄が消息をたった。
それは急に訪れて、いつもみたいに深海から朝帰りして家に帰ると父は開口一番に
「お前、兄さん探してこい」
とただ言い捨てた。
ジルベールはなんのことか分からず遂に父は頭でもイカれたかと「はにゃ?」という顔になったがマヌケ面を晒して固まるジルベールに父は
「お前が、兄さんを、探してくるんだ!」
と馬鹿でかい声で怒鳴り散らかすので本当に訳が分からなくなってジルベールは「貰った金財布に入れたかったんだけどな」と思いながらとりあえず家を出た。
ジルベールは海域を探し回った。
治安の悪いイルカの溜まり場も、深海のホテル街にも、学校にも行ったがジェラールは見つからず、ジェラールの職場へ行くと
「彼?数日前から見てないよ…彼無断欠勤なんだ、結婚に浮かれるのはよろしいが夜盛りあがって次の日休みますなんて迷惑極まりないのやめてくれって君から言ってくれないかね」
なんて言われてしまったのでジェラールが突如姿を消したのもその後見つかっていないのも確定事項となってしまった。
つい最近将来の幸せが確定したばかりなのに?
いやそれよりも。
Q,このまま兄が見つからなかったら?
A,父に殴り殺される!
婚約が破棄されれば当然結納金もチャラだ。
多額の結納金をアテに貯金全てを使い果たした父に「結納金チャラです!」なんて伝えればジルベールの命は儚い泡となって消えてしまうだろう。
言語化してみるとジルベールは急に恐ろしくなった。
どうしよう、家を出るか?家を出ても深海に行けばヒモにしてくれる女なんて沢山いるだろう、でも彼処に住む女たちなんて皆束縛の強いメスばかりだ、生き殺しか?ぼくは生けるピストンディルドマシンにされてしまうのか?そのうちもし相手がウッカリ妊娠なんてしたものなら「貴方の子よ」なんて言って吐き気のする生暖かい笑みを浮かべて急に子を育て始めるのか?ぼくは?子育てに巻き込まれる?たいして好きな女の子でもないのに?そもそも自分の中の父親像はあの男しかいないんだぞ、無理に決まってら。
____無理だ、子を成そうが成すまいがぼくは近いうちに殺されてしまうだろう。刺してくる相手が父か見知らぬ女か、ただそれだけの違いである。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようチクショウチクショウチクショウ!!!
なんであんなしあわせ兄貴のためにぼくが死なねばならんのか。
人魚の世界に宗教なんてないのでジルベールはカミやらゴカゴやらをちっとも信じてはいなかったが善い行いをすれば真っ白な羽根の生えたテンシサマとやらが迎えに来て死んだあとにいい所へ連れてってくれるし、逆に悪い行いをすれば死んだあと永遠に苦しめられる暗い所へ連れていかれる、そんなことはうっすら聞いた記憶がある。記憶の中のぼやけた顔の女がそう言っていた。
「…………」
困った時は頭の良い奴に頼るのみ。
ジルベールはロジェにすがりつくことに決めた。
「申し訳ないけど君の力になれそうにない」
「え?」
ロジェはきっぱり断った。
ロジェにはジルベールの計画性が全く見えなかったのだ。それにジルベールがどのように失踪した兄を探し出すのか見当もつかなかくて____
大方「君のおともだちにも声をかけてみてくれ」なんて言ってくるのだろうと思っていた。ジルベールには友達が自分しかいないから…
だから口を開けて驚いたのだ。
ジルベールが人間になりたいと言った際には。
「ねえロジェ」
「なんだい、だからわたしは」
「ロジェ、君は薬師の家の子なんでしょ」
「君の力には」
「ぼくを人間にしてくれないか」
「なれないよ………君、今なんて?」
「だから、ぼくを人間にしてくれ。ねえ、わかるだろ、ぼくは家に帰れないんだ。理由ならもう昔に君に話しただろう?君んちは薬屋なんだから人間になる薬のひとつやふたつあるだろ、ぼかぁ今までずっと体売ってきたんだ、君みたいなボンボンの小遣い超えるくらいの金ならあるさ。払うよ、金は」
「待ってジル待って、話が急に進みすぎだ、そもそも人間ななりたい人魚なんていないと思ってたんだけど……」
「どうしてもだめなの、ねえ、」
ジルベールは拳を顔に寄せてぶりっこのポーズをし、数多くの女たちを堕としてきたかわゆい顔で詰め寄ったがロジェは直ぐにはウンとはならなかった。
腹が立つ。ボンボンのくせにケチるのか。
「ロジェ、どうしても無理ってンなら直接君のパパに頼むよ。ぼくの体で。君のパパと深海の女たちは晴れて穴兄弟になるワケ。嬉しいね、兄弟が増えるんだ_」
なんて言おうとしたが途中でやめた。
ロジェは信じられないという顔でこちらを見ていた_
𓆝
「……いい?コレが人間になる薬だよ。どうせ君のことだ、一錠なんかじゃあ足りないなんて言うと思って予備に二錠、計三錠つくったんだ。わたしは頭がいいから。」
ジルベールに折れたロジェは半日で薬を作り上げた。
予備の薬付きで。
「ありがとうロジェ!ぼくの相棒」
「それはまあ、パパが君に掘られるよりはマシだから…それと、ジル、薬ってのは万能なものじゃないんだ。この薬は天才のわたしが作ったからちっとやそっとじゃ効果は切れないよ。ただ、条件を満たしてしまえば効果は切れてしまう」
「なぁに?」
「いいかいジル、君の故郷は海だ。人間になっても長時間海水に触れると君の体は海に戻ったと認識して一日経たずに人魚に戻ってしまうだろう。それと___」
めっちゃ書いたのにまだ2万字いかへんねんけど!、!、!、、???
まだ書きます よかったら展で完成版出す予定なので読んでね
試し読み ゃ〜 @Yamano86
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