天束さんとのビミョーな距離カン【中宮高校の人々!(天束姫佳編)】

ホメオスタシス

プロローグ

 本当に顔面が良すぎると、身に降りかかる苦労が多すぎるったらありゃしない。


「ずっと前から好きでした!僕と付き合ってください!」


 一年生の、それもどこの誰かも存じない、顔も見たことない男子生徒から告られた。


 一年から告られるのは今月に入って七回目。通算二十八回目だ。そろそろいい加減にしてほしい。


「……っ」

「あ、あの」


 返事はもちろん拒否だ。だって告白してくる男子なんてほぼがあたしの容姿からだもん。

 あたしはルッキズムな男となぞと付き合いたかない。せめて告るならあたしを知り尽くしてからにしてほしいよね。


「お、お返事は……」


 あたしだって思春期女子の端くれ。誰かとお付き合いしてみたいという願望は微量であれど存在する。だけどあたしの場合、恋愛においては需要よりも供給が上回ってしまうのだ。


 さりげなく男子生徒の顔を伺うと、その子は蝋燭にポっと火が灯ったように顔が真っ赤になる。


「あっ、あの……」


 みんなは恋愛物の小説や漫画を読んだことはあるだろうか?それらには、必ずと言って差し支えないくらい、超絶やらS級やらといった箔のついた美少女、美少年が登場する。


 彼らは大抵、運動神経抜群だったり勉強も得意だったりでスペックとしてはもう完璧なのだが、前述のような高スペックすぎるリア充キャラが、内気でクラスでもカースト下位にいる主人公に恋をする、と少々ぶっとんだ展開が繰り広げられる。そんな男女間のギャップが恋愛ものとして面白い。


 しかし、そんな完璧すぎるキャラクターがこの現実世界に存在するはずがないワケであり、まずリアルが充実してそうな奴らがクラスの根暗陰キャに話しかけるはずもない。

 そのような考えで極度の現実主義連中はそういった恋愛物を毛嫌いする。あたしも昔はそうだったし。


 で!す!が!あたしは、そんな人たちにラブコメよろしくのぶっとびキャラがことを身をもって証明できる……という事実を一昔前に気づいちまった。


 何故なら、ラブコメのような超絶美少女を地で行っているのがあたしだから。


「えっと……その……」


 男子生徒が、あたしを直視できずに委縮してしまう。無意識だが、多少上目遣いしているからであろう。


「あぅ、あまt……」


 ここであたしのプロフィールを公開しよう。


 名は天束姫佳。現在高校二年生にして学校の高嶺の花的ポジションに位置する美少女だ。 


 え?自己申告は所詮「自称」にすぎないって?甘いな、よく聞いておきたまえ。


 あたしの両親は超がつくほどの有名人なんだ。お父さんは国民的恋愛ドラマの主役も務める大物イケメン俳優。天束天慈(本名)。そしてお母さんはイギリス出身のスレンダーすぎるトップモデル、ミカエリーナ・エルーこと天束エル。間に生まれたあたしも二人の血を色濃く引いているS級超絶美少女で相違ない。これは実証済みだ。


 入学して初の自己紹介ではクラスの男子全員の顔を真っ赤にさせ、そのせいで担任が未知の感染症の集団感染と誤認したり。

 入学後初のHRが終わって帰宅しようとすると、廊下を歩いているなのにあたりが騒然となり、見物客の列が次々と作られたこともあった。度胸ある一部のリア充上級生からナンパされたりもした。


「うぐッッッッッッ!!!!!」

「だ、大丈夫ですか?」


 問題ない。ただのフラッシュバックだ。


 極めつけはその放課後、校門を出るとどこからか昔小学校の校門前にいた塾の勧誘ばりに芸能事務所のスタッフが学校前に殺到し、あたしにこぞって名刺を寄越し駆けつけた教師どもに払い除けられていた。あの時は本当に迷惑だった。


 このように、あたしは自他共に認める超絶美少女なのです。目の前の男子生徒があたしに惚れるのも理解できる。あたしが男子生徒の立場でも間違えなく惚れていたもん。


 最初に気づいた時は嬉しかったなぁ。『あれっ?これあたしじゃね?』ってベットから転げ落ちたもん。


「あ、あの……聞いてますか?」

「……」


 だがしかし、そんなあたしを取り巻く男どもの猛襲も、入学して数ヶ月経った今では台風一過を思わせるようにぱったりと止んでしまった。


「あ、天束さん……?」


 目の前の男子生徒が、ずっと押し黙って目線をあちこちに逸らしまくっているあたしを見て声をかけてくる。その声は告白という緊張感は薄れ、あたしの身を案じる心配が芽生えている。


「……」


 さっきも言った通り、男子生徒は間違いなくあたしの容姿に惚れ、告白してきた。

 あたしに告白して来た奴らはみんなそうだ。


 でもあたしにとっては迷惑の一言なので、そんな奴らが二度と告白してこないように、告白の際にはあたしに対する恋心を塵ダメにブチ込むような態度を心がけている。


 いやね、心がけずとも自動的にそうなる仕組みなの。すごーく便利!あたしの性格は、始まったばかりの人間関係をブチ切るのにとっても役に立つんです!


「えっと……おーい」


 人生において、持ち前の美貌がメリットになったことなんて一度もない。


のあたしは、承諾も拒否もできずにずっと棒立ちしたまま、あたしの気を察したか、はたまたあたしの内面を感じ取ったか、後味悪そうに去っていく男子生徒を見届けてこのイベントを脱するのだ。



 男子生徒は私の眼前で手を振り振りしながらあたしの正気を確かめている。これでもまだマシな方だ。


 入学当初のあたしは、性格上の問題で拒否なんてできないために、何人もの男子の告白を受理し、名目上、十股を達成してしまったビッチだった。でも結局、次の日に友人を通じて別れるんだけどね。


 それでもちょっとは成長したのか、友人を頼るのも悪いのでこのような手段で週に一回くらいの告白イベを逃れている。


 正直これがハッピーに終わるか、あとからバッドエンドが待ち受けているのかは未知数だけど、そんなのもう考えないことにした。


「あ、天束さん!?!?!?だっ、誰か救急車!?」


 てなわけで、内心で自分の容姿をネタに自画自賛するというウザめの美少女キャラをやりきったあたしは反動で目が回り、次に目覚めたのは保健室のベットの上でした。


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