第79話
週末まで何とか乗り切って土曜日の朝、今日は本当に何も予定がない日だ。掃除はこの前やったしなぁ。
窓を開けて部屋に空気を入れると、冬の風がスウェットの隙間を縫って身体に当たる。寒い…がこの背筋が伸びる寒さも嫌いじゃないな。
やはり休日は早起きに限る。早起きは三文の徳とはよく言ったもので、活動時間が増えるばかりか夜もしっかり眠れるため次の日も元気に活動できる。
もちろん惰眠を貪って深夜までゲームする生活も好きだが。
「うし、朝ごはん作るか」
休日の朝、静かなキッチンで作る朝ごはんが好きだ。段々と身体が「朝」に馴染んでくる感覚を味わいたくて、いつもは少し手の込んだものを作ってしまう。
ただ今日はシンプルにいこう、そして後でだらだらするんだ。
まずはなんと言っても米。何かと実家から送ってくれるが申し訳なさがある、もう俺も27だしな…。とはいえ貰ったものを食べない手はない。
数回研いだら炊飯器にセットしてボタンを押す。ピーッと元気な音を立ててご飯を炊き始める。
2合くらいで事足りるが、どうにもあいつの顔が頭に思い浮かんで3合にする。もしかするとこれでも足りないかもしれない。
まぁでも逆に余れば冷凍すればいいし。
次に冷蔵庫から卵とネギを取り出す。鹿見家のレギュラーメンバーである。大体料理する時、こいつらが手元にいる気がする。
あとは豆腐と……わかめでいいか。そう、味噌汁だ。
出汁を引いて味噌汁を作るのもいいが、今日は楽して出汁入り調味味噌を使う。
ネギと豆腐を切って鍋へ、お湯を沸かすとそのまま味噌も一緒に入れてしまう。具材に火が通ったらもう完成だ。
そういえば昨日秋津が会社で意味のわからないこと言ってたな。
事務課に書類を出しに来るなり「鹿見くん、来月のしゅ…やっぱりなんでもないわ!期待して待つように!」とかなんとか。
嵐のような人間である、そのままぴゅーっと帰ってしまった。
まぁなんかあるんだろう、仕事が増えることだけは勘弁だ。辞令が出るにしては早すぎるしプライベートの話か?
あれ、何か忘れてたっけ…。
まぁいいか、ご飯が炊けるまで時間あるし洗濯でもしよう。
一人暮らしする中で最初にお金をかけるべきなのは洗濯機だと思う。春夏秋冬、干して取り入れて畳む行為はできるだけ減らしたいものだ。
平日の残業によって溜められた家事は休日こうやって消化されていく。ただ、土曜にまとめてシャツのアイロンをかける時間は嫌いじゃないんだよな。
回るか回らないかギリギリの洗濯機に洗剤をぶち込んでボタンを押す。これで最後までやってくれるんだから、 元の生活には戻れないわな。
米が炊けるまであと数分、冷凍しておいたほうれん草をレンジで温める。どうも25歳を超えてから野菜も摂らねばと思うようになった。
……健康診断の数字が悪かったからというのは内緒だ、少なくとも秋津には。
次いでお椀に卵を割り入れ、小口ネギと合わせて溶いていく。うーん甘めもたまにはいいか、砂糖を少しだけ混ぜる。
油を敷いて温めたフライパンに卵液を落とすと程なくぷつぷつ焼けていく。
お箸を使って奥から手前に巻いていく。ここで失敗しても最後に上手いこといけばいいのだ。仕事と同じだな。
やがて炊飯器が仕事終了の合図を出す、今日もよくやってくれた。
レンジで温めたほうれん草を小鉢に開けて醤油と胡麻を振りかける。
やがてテーブルに本日の朝餉が並ぶ。
つやつやの炊きたてごはんに甘めのネギ入り玉子焼き、ほうれん草に味噌汁、完璧だ。
ひとりでゆっくり食べる朝ごはんもいいもんだ。
手を合わせてなんとなく目を瞑る。
「いただきます」
誰かに聞いて欲しい訳じゃないが感謝の言葉を口にする。
閉め忘れた窓からは、冬といえどもどこか優しい風が部屋に吹き込んでいた。
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