第78話
時刻は18時と少し、燃え尽きそうだ。
昼過ぎに来ていた大量の案件をなんとか捌ききって疲労困憊。今日は晩ご飯作る元気がないなとぼとぼとドアをくぐる。
会社から出てすぐの交差点には、キャメルコートの裾をはためかせた秋津。
「すまん、待たせた」
「んーん、私も今降りてきた!」
そう言いながらも頬は赤い。
疲れてまともな思考ができない、本能の赴くまま自分の両手で頬を挟む。
冷たい、やっぱり少し待たせたみたいだ。
「な、な、なになに?」
黙ってればクールビューティなのに喋ると幼さが出るところ、かわいいよな。
「いーやなんにも、帰るか」
「ん、帰りましょ!」
気を取り直して同じ方向を向くと左腕に重みを感じる。そうだよな、寒いもんな。
厚着しているからかいつもよりその温もりはちょっと遠い気がした。
最寄り駅の改札を抜けて夜の街を歩く。コンビニや美容室、居酒屋が並ぶ通りの一番奥に、おなじみの鉄板が並んでいる。
そう、たこ焼き屋である。
「なぁ秋津、今日ちょっと疲れて晩作る元気ないから何か買って帰らないか?」
「私全然作るけど……たまにはそういうのもいいわね!」
まだ店まで距離があるのに、もうここまでソースの焼けるいい匂いが漂ってくる。
「ねぇ鹿見くん」
「みなまで言うな、わかってる」
「コンビニで1缶だけお酒も買わない?」
別に誰が聞いている訳でも無いが何となく小声で話す、まるでこれからする良くないことの計画を立てているかのように。
「その話乗った、俺はレモンサワーにしようかな」
ぞろぞろとコンビニへと足を進める。周りからすると俺たちはどう見えているんだろうな。
入ってすぐ左に曲がり、奥のお酒コーナーに直進。
最近の缶のお酒のラインナップに驚くばかりだ、ポップなラベルから昔ながらのラベルまで選り取りみどりである。
俺は迷わずいつも飲んでいるレモンサワーを手に取ってかごへ。おそらく秋津は迷うのだろう、先に他のツマミでも探すか。
「ねぇどれにしよう〜〜」
「たこ焼きだからな、ビールでもハイボールでもチューハイでも合うぞ」
首を左右に振りながら悩む秋津。
結局俺が取った缶の隣にあったこれまた違うラベルのレモンサワーにしたようだ。
あのソース味をレモンで流した時を想像すると涎が止まらなくなる。
会計を済ませて外へ。
冷たい風が赤と青のマフラーを揺らす。退勤ラッシュなのか駅前には人が多い。
深夜まで残業すると人っ子一人いないんだがなぁ。
気を取り直してたこ焼きを購入、12個は多かっただろうか。
途中お好み焼きや焼きそばに目移りしかけたが、「絶対にたこ焼きでしょ!」と彼女に牽制されたため、無事丸くて香ばしい奴らを手に入れることができた。
マンションに着くと、なんの躊躇いもなく俺の部屋へ。あまりにも自然過ぎて声をかけるのもはばかられるほどだ。
さてさて、何はともあれたこ焼きだたこ焼き。
パックを開くと鰹節が踊る。青のりとソース、マヨネーズのコントラストが素晴らしい。
いつもより早い晩ご飯のはずだが思わずお腹が鳴る。
「「いただきます」」
お互い爪楊枝でたこ焼きを取り上げると、同時にばくっと口へ。
まずは舌に乗る熱さに驚く。次の瞬間には芳醇で、それでいてジャンキーなソースの味、ふわふわカリカリという二律背反なこの球体に首ったけだ。
秋津と俺はどうやら美味しいものを食べた時の顔が同じらしい。なら俺もこんな顔しているんだろうか。
目の前に座る彼女が頬を膨らませながら目を見開いているのを見て思う。
衣から既に美味しい、中の生地も美味しい、蛸のぶつ切りまで到達すれば一気に口が海鮮風味に満たされる。
待ちきれないとばかりに缶を開け、乾杯もそこそこにレモンサワーを身体に注入。
「あぁ〜この仕事終わりの一杯のために生きてる」
「おっさんくさいこと言わないでよ」
いやいやと手を振っているが同い年だからな俺達。
「俺達ももうアラサーだからな」
「聞きたくない聞きたくない」
鰹節のダンスも落ち着いてきた頃、紅しょうがと合わせてたこ焼きを口へ運ぶ。
しょっぱさと甘さにつられて手がアルコールに伸びる。
たまには定時に帰ってだらっとするこんな日もありか、なんて思いながら俺は空になった缶を潰した。
◎◎◎
こんにちは、七転です。
昨日なんとか仕事を納めてまいりました。
連日の忘年会に次ぐ忘年会で私の肝臓が悲鳴をあげています。
なんなら今日も明日も忘年会です。
年末年始はゆっくりできるから書き溜めでも……と思っていましたが、それどころではなさそうです。
クリスマスが終わった後の静かな街の感じ、とってもいいですよね。
皆様どうぞ良いお年をお過ごしください。
ではまた!
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