第045話 夏服

 モヤモヤした気持ちのまま六月になった。


 今日もいつものようにジョギングを熟してから学校に一番乗りをして、如月さんが来るのを待つ。


「それでさぁ……」

「何それ、ひっどい!!」

「ありえない」

「だよねー」


 十分くらい待つと、如月さんが仲良しの三人と一緒に教室に入ってくる。


 僕は如月さんの姿を見て、入学式の日のように固まってしまった。


 な、夏服……!!


 そう。前々から気温が高かったし、夏服を着始める人が増えていた。


 今日から六月。それを境に如月さんも夏服を着てきたようだ。半袖から覗く真っ白な腕が眩しい。


 他の三人組も如月さんに合わせて夏服になっていた。如月さんの周りにいる女の子たちは基本的に全員可愛いので、とても目の保養になる。


 あぁ~、冬服も可愛かったけど、夏服の如月さんも可愛いっ!!


 冬服の如月さんが落ち着いた静の可愛らしさだとすれば、夏服の如月さんは活発な雰囲気の動の可愛らしさを纏っている。


 こんなに可愛い如月さんを九月まで見れるなんて……。


 同じ年齢に生まれ、同じ学校に入学し、同じクラスになった僕はとても運がいい。


 如月さん以外僕に興味を示すことなく、自分の席に荷物を置いた。


 彼女は僕にだけ分かるように挨拶をして自分の席に着く。

 他の三人が如月さんの周りに集まって話の続きに花を咲かせていた。




「今日から夏服が増えて素晴らしいですなぁ、同士ヒッキー」

「だから止めろって。まぁそうだな」


 昼休み、マギーは感慨深げに頷く。


 どこの評論家だ?


「ヒッキーは、あの子の夏服にメロメロなのでは?」

「そ、そんなことはないっての」


 マギーがあの子というのは当然如月さんだ。

 僕は図星を指されて顔を逸らす。


「あの子は可愛いですからな。それも仕方ないでしょう。それで、何か進展はないのですかな?」


 実はカラオケに行って、似顔絵を描くために家に呼んだ。

 なんて言えるはずがない。


「そ、そんなものはないよ」

「ほほう。何かあったと見える。某に教えて下され」


 しかし、マギーは即座に見抜いて興味津々に聞いてくる。


「ないったらない」


 でも、僕は断固として話さなかった。

 だってマギーならなんで追及しなかったのかと聞いてくるに違いない。

 僕は今の関係を壊したくない。


「全く仕方ないですなぁ……これ以上は追及しないであげましょう」


 マギーはため息を吐いて、勝ち誇った笑みを浮かべる。


 こいつ……絶対いつか泣かす!!


 僕は心で決意してご飯を食べ終えた。




 いつものように如月さんと一緒に下校する。


「昨日のカミ沼も面白かったね」

「はい。今回もとても癒されました」


 昨日の深夜アニメの話で盛り上がる。

 しかし、どうしても白いブラウスが気になってチラチラと見てしまう。


「あ、そういえばさ、今日から夏服着てきたんだけど、どう?」


 突然、話題が変わり、如月さんがトットットッと少し先に走って行ってクルリと回り、スカートを少し持ち上げて僕に夏服を見せてくる。


 もう、なんなのそれ!! 見せ方が可愛し、スカートから覗く足がエッチ!!

 それはそれとして、も、もしかしてバレたのか……?


 可愛さとバレたかもしれないという不安で心臓が跳ねた。


「そ、そうですね。凄く似合っていると思います」

「そう? ありがと」


 俺が無難に褒めると、如月さんは満更でもなさそうに微笑んで隣に戻ってくる。


 ふぅ……バレてなかったみたいだ。


 僕はこっそり安堵のため息を吐いた。


「でも朝、私の方をじっと見ていたのよね? どうして?」


 しかし、その安堵は偽り。朝の僕の視線は如月さんにしっかりと認識されていた。


 うわぁああああああっ!!

 オワタ……如月さんを邪な目で見てたから怒ってるんだ、きっと!!


 こんな時、なんて返事をすればいいんだ!?


「あぁ~、もしかして私に見惚れっちゃった?」


 俺の戸惑いをよそに如月さんがニマニマしながら俺の顔を覗き込んでくる。


 そんな仕草をされて耐えられる男がいるはずないと思う。

 それだけの破壊力を秘めていた。


「は、はい。お綺麗だったので……」

「そ、そうなんだ……」


 もう逃げ場がないので正直に答えた。


 今の僕の顔は真っ赤になっているだろう。

 そして、如月さんも同じように顔を赤くしている。


 ……もしかして照れてる?


 いやいや、皆に褒められる如月さんが、僕に褒められた程度で照れるわけがない。もしかしたら、体調が悪いのかもしれない。


「もしかして体調が悪いんですか?」

「う、ううん、大丈夫よ」


 心配なので顔を見つめたら、そっと逸らされた。

 

 やっぱり体調が悪いのを隠しているのか?


「そうですか?」

「うん、あっ、それじゃあね」

「あ、はい」


 もう一度訪ねると、ちょうど如月さんの家について彼女は走り去った。

 

 本当に大丈夫だろうか。少し心配になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る