第031話 垣間見えるもの

 あの後、保健室の先生が戻ってきて、僕は検査のために病院に行くことになった。


 鼻血も止まったし、意識もはっきりしているので大丈夫そうだけど、「そのままにして何かあったら大変だから、きちんと病院に行きなさい」と母さんから電話口で言われたから。


 僕は今、一人でタクシーに揺られている。


『美遊:具合はどう?』


 ピロンッという通知音と共に如月さんからメッセージが届く。


 如月さんは本当に優しい。こんな僕なんかを心配して優しくしてくれる。

 やっぱり僕の"推し"は最高だ。


『弘明:今は特に問題ありません。これから病院で検査してきます』

『弘明:荷物や着替えを持って来ていただいてありがとうございました』

『美遊:そんなの全然いいよ。庇ってくれたのは眞白君なんだから』

『美遊:あっ、それより検査結果が分かったら教えてね』


 予定とお礼を伝えると、「命令です」という感じのキャラクターのスタンプと共に送られてくるメッセージ。


 その気持ちはとても嬉しいけど、流石に心配し過ぎだと思う。


『弘明:大丈夫だと思いますが……』

『教えてね?』


 そのことをやんわり伝えようとしたら、有無を言わせない笑みのスタンプと共に、そう送られてきた。


 ひぇ……。


『弘明:分かりました!!』


 そうだ。推しのお願いは絶対。きちんと報告しよう、そうしよう。


 病院に着いたら、二、三日、検査入院することになった。


 なんでも少し後に症状が出てくることがあるらしい。その観察も兼ねてということだった。


 あぁ……。


 二日、長くて三日、如月さんのご尊顔を拝見できないのは辛い。


 とりあえず、如月さんに伝えておこう。


『弘明:入院することになりました』


 病院のベッドに横になりながら、気が重いままメッセージを送った。


 ピロンピロンピロン……。


 突然、鳴りやまない通知音。


 何事かと思って飛びおきる。


『美遊:え……』

『美遊:ど、どこか悪かったの?』

『美遊:もしかして酷い状況とか?』

『美遊:もしかして後遺症が残るとか?』

『美遊:私のせいだ。ごめんね』

『美遊:私があの時、ちゃんと試合を見ていたらこんなことにならなかったのに』

……


 ひょわわわっ!?


 なんだか、物凄い勢いで如月さんから罪悪感がこもったメッセージが届いている。今もそれが止まらない。


 うわぁあああああっ!?

 伝え方をミスってしまった!!


『弘明:すみません。伝え方を間違えました』

『弘明:検査のために、数日入院することになっただけです』

『弘明:ご心配をおかけして申し訳ありませんでした』


 すぐに誤解を解くメッセージを送った。


『美遊:なんだ……そうだったんだ……』

『美遊:良かった。本当に良かった……』


 そうだよな。


 自分のせいで僕の具合が予想以上に悪くなっていたとしたら、優しい如月さんなら物凄く心配してしまうよな。


 変な伝え方をしてしまった自分に反省しないと。


『弘明:本当にすみません』

『弘明:数日間は病院でのんびりしたいと思います』

『美遊:んーん、いいの。ごめんね、早とちりして』

『美遊:しっかり休んで元気になってね』

『弘明:はい、ありがとうございます』


 ようやく如月さんからのメッセージが止んだ。


 心配するのは分かるけど、少し大げさすぎるなような……。


 いや、僕は如月さんのファン。


 プライベートに踏み込むべきじゃないよな。

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