第019話 こっそりGW⑦
ゴールデンウィーク二日目。
『美遊:大丈夫?』
目を覚ますと、如月さんから僕を心配するメッセージが届いていた。
それもそのはず。如月さんのパジャマ姿のあまりの可愛らしさに意識を失って返事ができなかったのだから。
如月さんを心配させるなんてファンとしてダメダメすぎる。
『弘明:大丈夫です。ご心配をおかけしました。申し訳ありませんでした』
『美遊:そんなのはどうでもいいよ。無事でよかったぁ』
如月さんがスタンプと同時にメッセージを送ってきて、本当に心配してくれていたんだと実感した。
さて、今日は何をしようか。正直家にいてもすることがない。
「痛たたたたたたた!!」
立とうとしたら、下半身が筋肉痛になっていた。とんでもなく痛い。
普段運動していない僕が何時間も歩いたせいだ。
そうなると、運動も難しい。
「スケッチでもしようか」
退屈するかもと思ってスケッチブックを持ってきていて良かった。僕は痛む足を引き摺って外に出る。
母さんは今日は数年ぶりに地元の友達と会うために出かけていて家にいない。
「弘明、どこに行くんだ?」
「家の近くでスケッチしてくるよ」
「そうか。気を付けろよ」
「うん」
爺ちゃんに見送られて僕は近場で腰を下ろせそうな場所を探して座り、スケッチブックを開く。
草の種類ごとに一本一本丁寧にスケッチし、石やカエルなんかも描写していく。風景のスケッチも忘れない。
キャラクターはある程度描けるようになったけど、それ以外は圧倒的に描画不足。ゴールデンウィークはその強化にちょうどいい。
背景もしっかり描けるようにならないと、如月さんの魅力を引き出すことができない。そのためにもっともっと描かないと。
描き始めると、周りの音が消える。
ただひたすらに描く、描く、描く。
「おーい、弘明!! いつまで描いてんだ。もう夜だぞ!! おめぇホントに貴子にそっくりだな!!」
「あ、爺ちゃん、ごめーん!!」
集中しすぎていたせいで日が沈むまで気が付かなかった。
やっぱり僕って描くの好きなんだなぁ。
改めてそう思った。
『美遊:今日は皆で映画を見に行ったよ』
『美遊:夕食はバーベキュー』
夕ご飯を食べた後、スマホを確認すると、如月さんからメッセージが来ていた。
どの写真もとても楽しそうだ。今日も如月さんが輝いて見える。
でも、昨日に引き続き推しを待たせるなんて、僕は本当にダメなファンだなぁ。
『弘明:すみません、絵を描いていたら、夜になってました』
自嘲しながら僕はメッセージを返す。
『美遊:そうだったんだ。何も無くて良かった!!』
『美遊:あ、良かったら、そのイラスト見せて欲しいな』
本来ならそんな練習みたいな物を誰かに見せたくはないんだけど、如月さんからのお願いを断るわけにはいかない。
『弘明:お恥ずかしいのですが……』
『弘明:(画像)(画像)(画像)(画像)』
『美遊:えっ、何これ、写真、え、何?』
混乱しているスタンプと共に驚いてるメッセージが届く。
『弘明:鉛筆で描いたものですね』
『美遊:本当に凄いよ。写真じゃないのに、こんなにリアルに描けるんだね!!』
如月さんの興奮が伝わってくる。褒められただけでもう幸せで一杯だ。
『弘明:そう言っていただけると嬉しいです』
『美遊:これって私のことも描ける?』
しかし、急転直下の質問が飛んでくる。
描けるかと言われれば、個人的には全然描けてない。でも、描けないと言ってしまうのは如月さんを悲しませてしまう気がする。
『弘明:い、いえ、とんでもない。全然再現できませんよ』
だから僕はごまかしの言葉で対応した。
『美遊:えぇ~、それでもいいから。ね、描いてほしいな?』
上目遣いのキャラクターのスタンプと同時に送られてきたメッセージ。
如月さんが上目遣いで僕に頼んでいるシーンを想像してしまう。
そんなの断れるわけないやろ!!
『弘明:わ、分かりました。時間がある時に描きますよ』
『美遊:約束だからね!!』
うわぁあああああっ!!
僕はそのまま如月さんをスケッチする約束をしてしまった。
はぁ……今でも可愛らしさを百パーセント引き出せないというのに……仕方がない。その時が来たら、覚悟を決めよう。
今日は風呂に入って早めに就寝した。
次の日も筋肉痛の残る体を引き摺り、スケッチする。
でも今日はスマホを目に見える位置において失態をしないように対策しておいた。
『美遊:残りは好きなアニメ見返したり、漫画読み返したりする予定』
『美遊:それは楽しそうですね』
如月さんは女子会とバーベキューの後は特に予定がなかったようで、休みの残りはアニメや漫画を見返すらしい。
それはそれでとても有意義なゴールデンウィークの過ごし方だと思う。
『美遊:メドメギ第七話でアルカちゃんが闇落ちした理由、ホント辛い』
『弘明:分かります。そりゃあ、闇落ちするよって感じですよね』
『美遊:そうそう。アルカちゃんかわいそ過ぎる』
『美遊:あの設定は重いですよねぇ』
僕はスケッチの合間に、如月さんとアニメの話をして過ごした。
なんだか毎日LINLINで会話しちゃってるけど、推しが自分とLINLINでやりとりしてくれるなんてありえない。
やっぱり現実の如月さんは理想よりも断然尊い。
「それじゃあ、また来るんだよ」
「気ぃ付けてな!!」
「分かってるわ」
「またね、爺ちゃん、婆ちゃん」
最終日、僕と母さんは婆ちゃんたちに挨拶を告げ、実家を後にした。
「あっ、これは……」
駅で新幹線を待っている間、お土産売り場で、如月さんが喜びそうなキーホルダーを見つけたのでお土産に購入した。
そして、時間になって新幹線に乗り、駅弁を食べて自宅に辿り着く。
『弘明:今帰ってきました』
『美遊:おかえり!! 明日学校で会えるの楽しみにしてるね(ハート)』
如月さんにそんなことを言われたら、心臓が飛び跳ねる。
あぶねぇ!! また、ヤられそうになった。
これは如月さんが優しいから、クラスメイトの一人が無事に帰ってきたのが嬉しいって意味に違いない。
たとえそうだとしても、明日学校に行くのがとても楽しみになった。
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