第014話 こっそりGW②

「貴子、おかえり。弘明もよく来たね」

「お母さん、ただいま」

「婆ちゃん、久しぶり」

「はようお上がり」


 駅からタクシーに乗って婆ちゃんの家に到着した。婆ちゃんは、とても優しげな笑顔で僕たちを出迎えてくれた。


 婆ちゃんの家の周りは田んぼしかなくて、隣の家まで物凄く離れている。


 長閑な風景に、日々に疲れた人や何かに張り詰めている人は癒されること間違いなしだ。


 それに、建物が詰まっていないから解放感がある。道を歩いている人もほとんどいなくて、いつも生活している街と比べてとてもゆっくりと時が流れている気がする。


 僕と母さんは客間に荷物を運び、居間に戻って来て座布団に腰を降ろす。


「今回は随分と間が空いたね。元気にしてるのかい?」

「ちょーっとバタバタが続いちゃってね。ようやくひと段落したところ」

「忙しいのはいいことだけど、体には気を付けるんだよ」

「分かってるわよ。久しぶりにゆっくりさせてもらうわ」


 二人はやっぱり親子。久しぶりに会っても普通に会話ができる。


 婆ちゃんは見た目通り、優しい人で、いつも夜遅くまで働いて無理しがちな母さんを心配している。


「弘明も大きくなったねぇ。前に会ったのは小学生の時だったかね」

「そうだな、多分小学五年生くらいの時だったと思う」


 婆ちゃんと会うのは本当に久しぶりだ。


 前に会った時よりも少しだけ皺が増えたように見える。


「もう五年か。そりゃあ、弘明も大きくなるわけだ。もう高校生かい。学校はどうだい?」


 正直、高校生活になんの期待もしていなかった。何もないまま終わり、そのまま大学生になるものだと思っていた。


 でも如月さんと出逢えた。そのおかげで毎日充実しているように思う。


「まぁ、楽しい……かな」

「そりゃあ、良かった」


 僕がポツリと呟くと、婆ちゃんは嬉しそうににっこりと笑った。


「あらまぁ、貴子が高校生くらいの時とそっくりだねぇ。本当に上手いもんだ」

「まだまだよ。でも、最近はメキメキと力を付けているわね。何かあったのかしら?」


 話題は僕のイラストの話になり、母さんが僕に意味ありげな視線を送る。


 如月さんを布教するために勉強しているおかげなどとは口が裂けても言えない。


「べ、別に何もないよ」

「そうかしら?」


 目を逸らす僕を母さんがジッと見つめる。


 くっ、これ以上問い詰められたら白状してしまいそうだ。


「上手くなってるならいいじゃないか。弘明も年頃だ。話したくないことの一つや二つくらいあるさ。あんたが高校生の頃は――」

「分かった。分かったわよ。その話は止めて」


 しかし、婆ちゃんのおかげで母さんが降参した。


 婆ちゃんは僕に向かって茶目っ気たっぷりにウインクする。


 婆ちゃんのおかげで助かった。流石母さんの母さん。母さんの扱いを心得ている。


「おーい、帰ったぞー」


 玄関の引き戸が開く音と、ちょっとしわがれた声が響いてくる。


「あ、お父さんも帰って来たみたいだね。ちょっと早いけど、そろそろお昼にしようか」

「手伝うわ」

「良いんだよ。出前取るから。ゆっくりしてなさい」


 爺ちゃんも帰ってきて、僕たちは出前を取り、昼食を済ませた。


 午後は縁側で横になる。


 正直、スマホを弄る以外何もすることがない。


 まぁ……たまにはこんなのんびりした気分になるのもいい。


 ――ピロンッ


「あっ。如月さんからかな?」


 僕はすぐにスマホを開いてみてみる。


「って、マギーかよ!!」


 しかし、メッセージを送ってきたのはマギーだった。


『ソウ:某、女の子と仲良くなりましたぞ!!』

『ソウ:画像』


 可愛い女の子とのツーショットが送られてきていた。しかも、女の子がマギーの腕に抱き着いている。


 何がどうなってそうなったんだ!? 羨ましい!! キーッ!!


 僕も如月さんに……はっ、何を考えているんだ。


 如月さんがそんなことをするわけがないじゃないか。馬鹿馬鹿しい。


「ちょっと、散歩行って来る」

「いってらっしゃい。気を付けていくのよ」

「分かってる」


 僕は居間で横になってテレビを見ている母さんに声を掛けると、頭を冷やすため、外に出るのだった。

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