第002話 衝撃
「んあ?」
目を覚ますと、そこは見慣れた室内だった。
「なんだか懐かしい夢を見ていた気がするけど……思い出せない……」
懐かしさだけが胸の内に広がっている。
でもいくら思い出そうとしても、手の隙間から抜け落ちる水のように、夢の内容を思い出すことはなかった。
ただ、なぜ懐かしい夢を見たのか。
その理由は、今日に迫ったある出来事が関係しているのかもしれない。
高校の入学式。
僕――
僕は陰キャで人付き合いが苦手だ。その憂鬱さが過去の記憶を呼び覚ました可能性はある。
重い気分のまま学校に登校し、クラス分けを確認して案内に従って教室に向かう。そこでは他の新入生が席に座り、早い人はすでにグループを作っていた。
自分で言うのもなんだけど、僕は友達が少ない。その上、この学校は県内でも一、二を争う進学校。同じ中学校から進学してきた人はほとんどいない。
つまり、同じ中学校の出身の友人が同じクラスになる確率は低い。
高校では完全なるぼっち生活か、そう思ったその時、奇跡は起こった。
「おっすおっす。同じクラスになれるとは思わなかったですぞ、同士ヒッキー」
「ヒッキーは止めろ、ヒッキーは。僕もだよ、マギー」
幼馴染である真木総一郎ことマギーが同じクラスだった。
それだけで僕の気持ちは一気に軽くなる。
マギーは僕と同様に陰キャのオタク仲間だ。
眼鏡をかけていて、おかっぱ頭のいかにもガリ勉という見た目をしている。小学生の頃からの付き合いだから、もう腐れ縁と言ってもいい。
これで少なくとも一年間はぼっち生活をしなくて済みそうだ。
「でゅふふふっ。いつからの付き合いだと思っているんですかな? これから一年よろしくですぞ」
「はぁ……そうだな、こちらこそ一年よろしくな」
「もちのろんですぞ」
僕たちは奇跡に感謝をしながら握手を交わした。しかも幸いなことに名字が近いのでマギーは僕の一つ前の席だ。
――ガラガラガラッ
また一人クラスメイトが扉を開けて教室へと入ってくる。
「え?」
その瞬間、僕の
そう表現する以外に今のこの状況を適切に説明できる言葉が見つからない。
なぜなら、今教室に入ってきたクラスメイトとよく似たキャラクターに見覚えがあってあまりにそっくりだったから。
そのキャラクターの名前は柊真琴。僕が一番大好きな作品『陰キャン』こと『陰キャンパー、陰キャンパーに出逢う』のメインヒロインだ。
教室に入って来た少女は、まるで物語の世界から抜け出してきたと言っても信じられるレベルでよく似ている。
いや、ハッキリ言って現実の方が
肩に届くか届かないかくらいで髪の毛を切り揃え、凛とした雰囲気を漂わせながらも、女の子らしい可愛らしさと
まるでシルクのようにきめ細やかな肌と、モデルのようにすらりとした手足。
これほど可愛い女の子が現実に存在していいのかと、僕は自分の目を疑った。
「あっ」
不思議なことに目が合った瞬間、彼女は僕を見て目を丸くしている。
「あの子、滅茶苦茶可愛くないか?」
「あ、あの子、俺の方を見てる」
「いやいや、どう見ても俺だろ」
彼女のその整った容姿に他のクラスメイト達が色めきだした。喧騒に気づいた彼女は、すぐに自分の席に歩き出す。
目を奪われた僕は彼女を自然と目で追っていた。
その後の彼女に、特に動揺しているそぶりはない。さっき僕を見て驚いたと思ったのは気のせいだったのかもしれない。
そして、残念ながら彼女の席は自分とは離れていた。
「おい、どうしたんですかな、ヒッキー? ヒッキー?」
「あ、ああ。なんでもない」
僕はマギーに肩を揺さぶられてようやく我に返る。
「もしかしてあの子ですかな? 二次元にしか興味のない君が珍しい」
「いや、そんなんじゃない。昔会ったことがある人に似ていただけだ」
「あの君がね~」
ニヤニヤとした笑みを浮かべて眼鏡を中指でクイッと上げるマギーが憎たらしい。
「なんだよ、何か言いたいことでも?」
「いやいや、何でもないですぞ」
憮然とした態度を取っても彼の深い笑みが変わることはなかった。
僕みたいな陰キャデブが、あれ程までに理想を体現したような存在にお近づきになれるわけがない。
この時はそう思っていた。
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